池田健二氏のロマネスク写真館2回目の投稿となります。
池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。
第2回のテーマ-「イタリア・ロマネスクの絶景-10選」
前回のフランスに続いて、今回は「イタリア・ロマネスクの絶景」の10選を紹介します。
イタリアでは、ローマ時代に建設され、帝国の滅亡と共に衰退していた都市が、11、12世紀になると商業の復活によって急速に復興します。その時、各都市の司教や市民たちは、ロマネスクの大聖堂を競って建設したのでした。
その多くが今も市街の中心に建っていて、市民の心の拠り所となっています。都市の中心にロマネスクの大聖堂が輝いているのは、イタリアならではの絶景です。もちろん、田園に残る修道院の教会も見逃せません。
1.チヴァーテ-サン・ピエトロ・アル・モンテ教会とサン・ベネデット礼拝堂
ロンバルディアの北部、コモ湖に近いカルニッツォーロ山の中腹のテラスに、初期ロマネスクの教会と洗礼堂が孤立しています。どちらも11世紀初頭に建設されたロンバルディア様式の建築ですが、教会の方は11世紀末の改築によって少し奇妙な姿になっています。標高300mの地点にあるため、荒れた山道を1時間かけて登らなければ、この絶景に出会うことはできませんい。苦労すればするほど、絶景は輝きを増すものです。
2.カステッラルクワート-サンタ・マリア・アッスンタ参事会教会
エミリアの西部、ポー川の平野が途切れてアペニンの山並みが始まる地点に、小さな丘上都市カステッラルクワートがあります。その名の由来となった城砦に隣接して建つのが、コレッジャータの愛称で呼ばれる参事会教会です。
12世紀初頭のロマネスク建築で、大小の後陣が連なる外構えが見事です。後陣を見上げる広場には13世紀のポデスタ宮殿も残っています。中世の建築に囲まれた静かな広場はロマネスクの絶景のひとつです。
3.パルマ-サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂と洗礼堂
エミリア街道には壮麗なロマネスクの大聖堂を抱く都市が並んでいます。チーズ(パルミジャーノ)や生ハム(プロシュート)で有名なパルマもそうした都市のひとつです。その旧市街の中心にある長方形の広場に、12世紀に建設されたロマネスクの大聖堂と13世紀に完成した八角形の洗礼堂が建ち並んでいます。建築家であり彫刻家であったベネデット・アンテーラミがここで活躍しました。夕暮れ時の広場に絶景が広がります。
4.ポンポーザ-サンタ・マリア・アッスンタ修道院教会
ロマーニャの東端、ポー川が運ぶ砂がアドリア海に生み出したラグーナに、ポンポーザの修道院教会が孤立しています。
ラヴェンナからヴェネツィアに続く街道を進むと、赤く輝く鐘塔が見えてきます。11世紀に建設されたロンバルディア様式によるレンガ造りの鐘塔で、まるで天国に架かる梯子のようです。教会は8世紀のバシリカ建築で、床に広がるモザイクは11、12世紀の傑作です。どうぞ夕日の時間に訪れてください。
5.ムラーノ-サンティ・マリア・エ・ドナート教会
ヴェネツィアの教会といえばサン・マルコ教会ですが、ロマネスク好きが訪れるべきは、ガラス工房が集まるムラーノ島にあるサンティ・マリア・エ・ドナート教会です。運河越しに眺める後陣の外構えには、ロマネスクとビザンティンの二つの様式が巧みに組み合わされています。東方ビザンティン世界と西方ロマネスク世界を交易で結ぶことで繁栄した海洋都市国家ヴェネツィアならではのロマネスクの絶景です。
6.ルッカ-サン・ミケーレ・イン・フォロ教会
10、11世紀にはトスカーナ公国の首都として、12世紀にはフランスとの絹織物の交易で栄えたルッカ。その旧市街に三つのロマネスク教会が生き続けています。なかでも古代ローマのフォーラム広場跡に建つサン・ミケーレ教会のファサードが見事です。象嵌文様で飾られた円柱の並ぶ小アーケードが何層にも重なり、頂上では聖ミカエルがドラゴンを退治しています。このファサードがピンクに染まる夕暮れが絶景の時です。
7.サンタンティモ修道院教会
世界遺産に登録されているトスカーナのオルチャの谷の一画。ワインで有名なモンタルチーノの郊外の静かな谷に、サンタンティモの修道院教会が静かにたたずんでいます。周囲にあるのはオリーヴの畑だけで、中世そのままの聖なる風景が広がっています。教会は、イタリアのバシリカとフランスのロマネスクが入り交じる不思議な構成を見せています。谷の入口で車を降りて、歩いて坂を下ると、この絶景が手に入ります。
8.アッシジ-サン・フランチェスコ教会
ウンブリアの丘上都市アッシジは、13世紀以降、聖フランチェスコへの巡礼地となります。突然の回心によって清貧と悔悛を説き勧める修道士となった聖フランチェスコは、ここで生まれ、没後はここに葬られたからです。その墓所として13世紀前半に建設されたのが、サン・フランチェスコ教会です。市街の西端に建つ大教会で、建築にはロマネスクとゴシックの様式が併用されています。フランチェスコの聖性と共にある絶景です。
9.サン・ヴットーレ・アッレ・キウーゼ修道院教会
アドリア海に面してアペニン山脈を背にするマルケ。その山中の険しい谷に、聖ヴィットーレに捧げる不思議な姿のロマネスク教会が孤立しています。11世紀にベネディクト会修道院の教会として建設されましたが、方形の中にギリシア十字の空間を秘めた平面構成はビザンティン建築を思わせます。ロンバルディアとビザンティンの建築家の合作なのかもしれません。背後の岩壁と教会の粗い石積みが見事に調和した絶景です。
10.カステル・サンテリア-サンタナスタシオ教会
ローマの北方、ラツィオのカステル・サンテリアの町の背後に緑の谷が広がっています。その谷の入口に6世紀に創建された修道院がこの教会の起源です。11世紀にはクリュニー派の修道院となり、現在の教会が建設されました。褐色の凝灰岩によるローマ風のバシリカ建築で、内部には古風な円柱が並び、後陣には色鮮やかな壁画も残っています。背後には教会の建材ともなった凝灰岩の岩壁が広がり、印象深い絶景を生んでいます。
いかがでしたでしょうか。「ロマネスク写真館」を毎週アップ予定です。
次回も是非ご覧ください。