池田健二氏連載┃わたしの旅日記「ドイツ、苦難の旅-アウディ」 

池田健二氏の連載第四弾。

メルマガで先行配信していたものを、こちらでご紹介いたします。

目次

わたしの旅日記 本日のテーマは「ドイツ、苦難の旅-アウディ」

ドイツへの旅の出発点はパリの東駅でした。

この駅からドイツに直行するTGV(高速列車)が出ているのです。

車両はSNCF(フランス国鉄)ではなくDB(ドイツ鉄道)のものでした。目指すはラインラントの都市マンハイムです。

13時10分発で14時17分着でしたから、3時間ほどで着いたことになります。すぐに駅前のホテルに投宿しましたが、そこから見えるマンハイムの家並みの何とも殺風景なこと。ラインラントの諸都市はどこもそうですが、第二次世界大戦の爆撃で古い家並みは破壊されてしまったため、戦後のさまざまな時期のビルがばらばらに並んでいるだけなのです。日本と同じです。

翌日は日曜日でした。旅行者にとって日曜と月曜は鬼門です。

教会がミサで入れなかったり、美術館が休館になったりするからです。マンハイムの駅前のシクスト・レンタカーのオフィスはやはり日曜休業で閉まっています。そのため、タクシーで郊外の営業所に向うしかありませんでした。

ここでもレンタルの手続きは簡単に済み、車のキーを受け取りました。そして指示された駐車場に行くと、アウディの新型車が待ち受けていたのです。これはラッキー、と喜んで乗りこんだのですが、それが苦難の始まりでした。

その苦労話は後回しにして、まずはドイツ訪問の目的を話させてください。私はコロナが始まる直前の2019年秋にドイツ東部のザクセン地方のロマネスク教会をレンタカーで巡りました。ヒルデスハイム、ゴスラー、クヴェドリンブルクなどの町々に残るロマネスク教会を撮影するためです。天候にも恵まれて良い取材ができました。

これで残る取材場所はドイツ西部のラインラント地方だけになっていたのです。ライン川沿いの諸都市には爆撃による破壊を免れた壮大なロマネスク教会が建ち並んでいます。シュパイヤー、ヴォルムス、マインツ、マリア・ラーハ、そしてケルン。この地の取材が済めば、2008年から続けてきたデジタル写真によるロマネスク撮影の長い旅が完了するはずでした。

しかし、そうはならなかったのです。新型のアウディを運転してまずシュパイヤーの大聖堂に向いましたが、途中から雨模様です。雄大な構えを見せる後陣の外観を何とか撮影して中に入ると、すでにミサの準備が始まっていました。

シュパイヤーの大聖堂
シュパイヤーの大聖堂-東後陣

係員に撮影を制止されたため、心を残したままで駐車場に置いた車に戻りました。

ところが、エンジンの始動ボタンを押しても反応がないのです。借りたばかりのレンタカーでしたからバッテリーが上がっているはずはありません。すぐにレンタカー会社に電話しましたが繋がりません。日曜日の連絡はメールだけなのです。そこで、車を停めに来るドイツ人に助けを求めました。何人もの親切なおじさんたちが車に乗り込んで調べてくれましたが、解決しません。そこで心を落ち着かせるため、一度車を離れてカフェに入り、コーヒーを飲みました。

しばらくして車に戻り、始動ボタンを押すと、今度はエンジンがかかるではないですか。何が良かったのか分からないままに、次の目的地であるヴォルムスの大聖堂に向いました。空はどんよりと曇っていましたが、ミサは終わったあとでしたので、撮影は順調でした。

ヴォルムスの大聖堂
ヴォルムスの大聖堂-西内陣

そして駐車場に戻り、始動ボタンを押すと、またまた反応がないのです。今度は少し時間を置いても反応がないままです。その時、救世主が現れました。二人の若者が通りかかったので助けを求めたのですが、そのうちの一人が自分はアウディに乗っていたので、まかせてくれと言うのです。

運転席に座ってしばらく操作していると、何とエンジンがかかるではないですか。やはりバッテリーの問題だろうということで、市内のバッテリー・ステーションまで同乗してくれましたが、別の車が充電中で問題が解決しません。

そこで決心しました。マンハイムのレンタカーの営業所に戻って、車を交換してもらうことをです。ここでこの若者にお礼の昼食代を渡して別れました。友達と昼食に行く途中だったのに、友達を待たせて、親身になって手伝ってくれたのてす。トルコ系の移民の若者でしたが、日本が大好きだと言っていました。心温まる出会いでした。

幸いなことに、ヴォルムスからマンハイムまでは遠くありません。30分ほど車を走らせてシクストの営業所に戻りました。そして係員に文句を言ったのです。エンジンがかからないじゃないか、車を交換してくれと。

すると、そんなことはないはずだと言うのです。一緒に車を点検して理由が分かりました。

この車は最新のハイブリッド車だったのです。

私自身、日本でハイブリッド車を運転したことがありませんし、知識もありません。いろいろと手助けしてくれたドイツ人も、ハイブリッド車であることに気づかなかったのです。日本ではトヨタのプリウスをはじめとしてハイブリッド車は珍しくないのですが、ドイツでは珍しいのです。自分が無知だっただけで、レンタカー会社を非難するわけにはいきません。それでも車は交換してもらいました。大きな液晶パネルに横文字で情報が表示されるシステムもいやでした。今度の車はルノーのCX5というかなり大型のSUVです。

ところで、いったいどうすればエンジンをかけることができたのでしょうか。答えは、エンジンをかける必要などなかったのです。ハイブリッド車は充電されていればパワーボタンを押すだけでモーターで動くのです。逆に、電池があればエンジンの始動ボタンを押しても反応しないのです。パワーボタンの存在に気づきませんでした。そしてハイブリッド車であることにも。

おのれの無知をひたすら恥じ入るばかりの出来事でした。こうして数時間を無駄にして、ルノーCX5を新たな相棒に、旅を再スタートしました。しかし、またまたレンタカーをめぐる事件が起きるのです。その話はまた次回に。


池田 健二(イケダ ケンジ)

1953年広島県尾道市生まれ。上智大学文学部史学科卒。同大学大学院博士課程修了。 専攻はフランス中世史、中世美術史。91年より毎年『ロマネスクの旅』を企画し全ヨーロッパのロマネスク教会を詳細に調査する。上智大学や茨城キリスト教大学などで長年にわたり歴史や美術史を講義する。訳書に『ヨーロッパ中世社会史事典』(藤原書店)、共訳書に『中世の身体』『中世とは何か』『ヨーロッパの中世-芸術と社会』(藤原書店)、『ロマネスクの図像学』『ゴシックの図像学』(国書刊行会)、著書に『フランス・ロマネスクへの旅』『イタリア・ロマネスクへの旅』『スペイン・ロマネスクへの旅』(中公新書)。

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