池田健二氏連載┃わたしの旅日記「ディジョン、そしてオータンとヴェズレー」 

池田健二氏の連載第二弾。

メルマガで先行配信してたものを、こちらでご紹介いたします。

目次

私の旅日記 1月13日号
本日のテーマは「ディジョン、そしてオータンとヴェズレー」

私の旅日記 1月13日号 本日のテーマは「ディジョン、そしてオータンとヴェズレー」。

前回はパリへの到着までの出来事を書きましたが、今回はディジョンのことを書かせてください。

パリへの滞在はひとまず一日で切り上げ、リヨン駅からTGV(高速鉄道)でブルゴーニュの州都ディジョンに下りました。

TGVの路線網は今やフランス中に張り巡らされていますが、開業したのは意外に遅く、1981年のことです。

最初の路線はパリ・リヨン間でしたが、開業前にパリ・ディジョン間で試験運行が実施されていたことを思い出しました。

私が最初にディジョンを訪れたのは1984年で、TGVがすでに走っていたはずですが、このときは在来線の急行で移動したことを覚えています。

1984年の夏、私はディジョンのブルゴーニュ大学で開かれている外国人のための4週間の語学講座に参加しました。

そのとき、初めてロマネスクの教会と出会ったのです。

ロマネスクそのものについては、学生時代にアンリ・フォションの『ロマネスク』(鹿島出版)を読んでいましたから、ある程度の知識は持っていました。

しかし、写真ではなく実物のロマネスク教会や芸術に出会ったのはこの時でした。

午前中は大学でフランス語の講座を受講するのですが、午後にはオプショナルのプログラムが組まれていました。

その中に「ブルゴーニュ美術史」の授業があったのです。

講師はアレクサン先生でした。

教室内での座学もありましたが、アレクサン先生がディジョン市内の歴史的な建築物や美術館を案内する授業もありました。

私はアレクサン先生に導かれてディジョン市内を巡り、その歴史と芸術を学びました。

ディジョン-リベラシオン広場と太公宮殿

ディジョンに特別の愛着があるのはそのためです。

さらに週末の土日にはエクスカーションのプログラムが組まれていました。

ブルゴーニュの各地に残る歴史的な建築を巡るこの日帰りの旅の同行講師もアレクサン先生でした。

その行き先の大半がロマネスクの教会だったのです。

最初の旅先はラ・シャリテ・シュル・ロワールとヴェズレーでした。

土曜日の早朝、参加者を満載して大学前から出発したバスは、高速道路を西に走って、一路、ラ・シャリテに向いました。

ロワール川に架かる橋のたもとに11世紀に創建されたクリュニー派の大修道院の遺構が残る場所です。

教会の西正面の双塔の片方と身廊の半分は16世紀中頃の火災で失われていますが、残っている部分だけでも驚くほど壮大なロマネスク建築です。

往時にはロワール川を渡るサンティヤゴ巡礼の救護にこの修道院は活躍しました。

ラ・シャリテ・シュル・ローワル(ロワール川の慈愛)という名はそこから生れたものです。

ヴェズレーに到着したのは昼前でした。アレクサン先生に先導されてあの参道を上り、サント・マドレーヌ教会の前に立ち、ナルテックスのタンパンであの「ヴェズレーのキリスト」に出会ったのです。

そのときの感動が自分にとっては大きな転換点でした。

そこから私の人生そのものがロマネスクへ、ロマネスクへと引かれて行ったのです。

今回の旅ではディジョンでレンタカーを借りて自分なりのエクスカーションを実施しました。

行き先はオータンとディジョンです。

どちらの教会も最期に訪れたのは2018年の夏でした。

そのとき、オータンの大聖堂は身廊が修復工事のために閉鎖されていました。

ヴェズレーの教会はナルテックスの修復工事がまだ始まっていませんでした。

ヴェズレーのタンパンは石材に亀裂が入り、全体にゆがみが生じたため、下部に鉄の枠をはめて補強されていました。

修復工事は予告されていましたが、10年あまりこの状態のままでした。

コロナの間にオータンとヴェズレーの修復工事は完了したことは事前に確認することができました。

その仕上がり具合を見るのが今回のエクスカーションの目的でした。

まずオータンの大聖堂です。

オータンの大聖堂-身廊

教会の身廊は真っ白く洗い上げられていました。

ところどころ漆喰が落ちていた側廊の天井も元通りになりました。

そして、あの身廊の柱頭たちも新品のように綺麗になっていました。

嬉しい反面、強い違和感を感じたのも事実です。

ヴェズレーに着いたのは昼過ぎでした。

丘の下にレンタカーを駐車して、徒歩で参道を上り、サント・マドレーヌ教会の前に立ちました。

予想はしていたのですが、教会のファサードは真っ白くなっていました。

八百年間の時の垢をすべて洗い落としてしまったのです。

フランス人は「わび・さび」の美の感覚に疎いようです。

ナルテックスは完璧に修復されていました。

ヴェズレーの教会-西正面
ヴェズレーの教会-ナルテックス

もちろん、タンパンを下から支えていたあの無粋な鉄枠も消えました。
こちらの修復には満足しました。10年来の不満が解消されたわけですから。

日が傾いてきました。

ヴェズレーからディジョンまで1時間30分かかります。
レンタカーの返却の時間が迫っていました。
途中でガソリンススタンドを探したのですが、見つかりません。フランスでもスタンドが減っているのです。

やむなく、ガソリンを満タンにすることなく返却しました。
こうした場合、ガソリン代が後払いで請求されるはずですが、なぜか、まだ請求書が届きません。忘れてしまったのでしょうか。

そうそう。最近、ある方からアレクサン先生の近況教えていただきました。
もう退職されているのですが、何と日本人の教え子と結婚(再婚か再再婚)され、ディジョン在住で、奥様のワイナリー案内の仕事を手伝ったり、ロマネスク教会を巡る旅のガイドをされているそうです。

近々連絡を取ってみるつもりです。再会が楽しみです。

(池田健二)


池田 健二(イケダ ケンジ)
1953年広島県尾道市生まれ。上智大学文学部史学科卒。同大学大学院博士課程修了。 専攻はフランス中世史、中世美術史。91年より毎年『ロマネスクの旅』を企画し全ヨーロッパのロマネスク教会を詳細に調査する。上智大学や茨城キリスト教大学などで長年にわたり歴史や美術史を講義する。訳書に『ヨーロッパ中世社会史事典』(藤原書店)、共訳書に『中世の身体』『中世とは何か』『ヨーロッパの中世-芸術と社会』(藤原書店)、『ロマネスクの図像学』『ゴシックの図像学』(国書刊行会)、著書に『フランス・ロマネスクへの旅』『イタリア・ロマネスクへの旅』『スペイン・ロマネスクへの旅』(中公新書)。

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