シロスの回廊のロマネスク彫刻10選┃ロマネスク写真館

池田健二氏のロマネスク写真館22回目の投稿となります。

池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。

目次

第22回のテーマ-「シロスの回廊のロマネスク彫刻10選」

スペインのカスティーリャ地方。その中西部の浅い谷にサント・ドミンゴ・デ・シロスの修道院があります。7世紀に起源をさかのぼる修道院ですが、イスラムの支配下で衰退し、11世紀になって復興します。カスティーリャ伯フェルナンド1世の支援のもと、サン・ミャン・デ・コゴーリャの修道士であったサント・ドミンゴの尽力によって、ロマネスクの教会が建設され、12世紀には現在の回廊が完成しました。

ロマネスクの回廊は広大で、2階建ての構成になっています。その1階の空間の四隅に太い角柱があって、その各2面が素晴らしい浮彫で飾られています。そのうち2面は13世紀の作品であるため、ここでは取り上げません。12世紀の6面の浮彫の図像の主題は「キリストの受難」と「キリストの復活」です。

浮彫の作風は独特の個性を放っています。どの面においても全体の構図はユニークで、神聖なダイナミズムに満ちています。浮彫の造形と線は繊細で優美、そしてしなやかです。同時にどこかモダンなのです。登場人物の顔はモディリアニの表現にも似ています。

1.シロスの回廊

回廊の1階の一隅です。柱頭も素晴らしいのですが、四隅の太い柱の2面の石板に刻まれた浮彫が何より重要です。ここでは左側に「エマオの巡礼」右側に「不信のトマス」の図像が見えています。内向きで少し暗いのですが、順を追って解説します。

2.十字架降架

受難の物語は「十字架降下」から始まります。首を傾けた十字架上のイエス、手の釘を抜くニコデモ、体を抱えるアリマタヤのヨセフ、腕に顔を寄せる聖母マリア、使徒ヨハネの姿が刻まれています。下の炎のようなものはイエスの死の瞬間に起きた天変地異の表現なのでしょう。十字架の下にはそのとき墓から蘇った死者の姿もあります。

3.キリストの埋葬と復活

不思議な図像です。中央ではアリマタヤのヨセフとニコデモが死後硬直したイエスを石棺に収めています。その蓋には天使が座っていて、香油(欠損)を持って墓を訪れた3人の聖女たちにキリストの復活を告げています。下に刻まれているのは眠り込む番兵たちです。埋葬と復活の二つの出来事が一場面にまとめられているのです。

4.エマオの巡礼

復活の物語の始まりがこの場面です。ここでの登場人物はイエスと二人の弟子たちだけであるため、3人が大きく表現されています。イエスは巡礼の杖(欠損)を持ち、帆立貝を付けたずた袋を下げています。「エマオの巡礼」が「サンティヤゴ巡礼」と重ねられているのです。イエスの足の表現も優美です。

5.エマオの巡礼-拡大

拡大すると浮彫の表現と特徴が良くわかります。その造形には柔らかなボリューム感があるのですが、衣の線は繊細です。イエスと弟子たちの顔は、シンプルでモダンな造形となっています。シロスの浮彫の魅力はこの現代性にあるのです。

6.不信のトマス

復活したイエスがあらためて使徒トマスの前に現れた場面です。トマスはイエスが弟子たちに出現したとき不在だったのです。イエスは復活を信じないトマスの指を脇腹の槍傷に入れさせます。ここでは立ち並ぶ使徒たちが三段に分けてリズミカルに配置されています。頭光には弟子たちそれぞれの名も刻まれています。

7.不信のトマス-拡大

キリストの表情も、弟子たちの表情も、不思議な静けさに満ちています。仕種はそれぞれに異なりますが、顔の表情は皆よく似ています。夏の午後のひととき、中庭に注ぐ光が回廊の床に反射し、この群像を下から照らし出します。その一瞬を捉えた写真です。

8.キリストの昇天

キリストの昇天と聖霊降臨の浮彫パネルは隣接していて、両方の構図は良く似ています。どちらも使徒ちと聖母マリアの群像が上下二段に配しているからです。その彫像が刻む繊細なリズムの上に、昇天するキリストと降臨する聖霊が刻まれています。

9.キリストの昇天-拡大

昇天するキリストの表現はきわめてユニークです。雲間から昇天するキリストの顔だけが出ていて、まるで上昇するロケットのようです。二人の天使がその雲を支えています。下から見上げるのは聖母マリア、聖ヨハネ、聖ペトロ、聖パウロたちです。

10.聖霊降臨

この場面では使徒たちはイエスの福音を記した書物を手にしています。天の雲間からはキリストの手が出ていて、使徒たちに聖霊を下しています。ヴェズレーのタンパンと同じ主題ですが、使徒たちの表情や仕種は静かです。使徒の列から頭が出ているのは聖母マリアです。ここでは昇天と降臨が一連の出来事として表現されています。

私は朝日カルチャーセンターの新宿教室、横浜教室、立川教室、中之島教室でもロマネスクの講座を担当しています。お申込みいただけば、いつでも受講が可能です。朝日カルチャーセンターの講座については下記からご覧ください。

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