リュベルサックのロマネスクの柱頭10選┃ロマネスク写真館

池田健二氏のロマネスク写真館28回目の投稿となります。

池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。

目次

第28回のテーマ-「リュベルサックのロマネスクの柱頭10選」

南フランスのリムーザン地方の北部。リュベルサックの町に残るサン・テティエンヌ教会は、花崗岩で築かれた堅固なロマネスク教会です。その多角形の後陣と大きな翼廊の内外に、魅力的なロマネスクの柱頭が点在しています。

後陣外壁の三つの柱頭に刻まれた物語の主人公は、エルサレムの若き助祭で最初の殉教者である聖ステファノです。ステファノは最高法院でユダヤ教のあり方を批判したため、城外に引き出されて石打ちの刑に遇います。聖ステファノの墓の場所は長年不明でしたが、5世紀初頭に司教ルシアンがその墓を発見し、エルサレムの教会に移葬したのでした。

後陣の内壁を飾る浮彫の主人公はイエスです。その降誕から十字架上での死にいたる諸場面が柱頭に展開しています。その図像の構成はシンプルで、表現は大胆です。登場人物の表情は無垢で明るく、不思議な親しみ深さを感じさせます。今回の10選はこのリュベルサックの柱頭の世界を巡ります。

1.リュベルサックのサン・テティエンヌ教会

教会の入口は南翼廊にあって、多弁形のアーチで縁取られています。大小三つの後陣はいずれも多角形で、中央の後陣の外壁は付け柱とアーチで装飾されています。そこにある柱頭に聖ステファノの殉教と移葬の物語が刻まれています。

2.聖ステファノの殉教

エルサレムの城外に引き出されて石打ちの刑に遭う聖ステファノを刻む柱頭です。多くのユダヤ人が石を投げ、その石がステファノの頭に集中している表現が一般的ですが、ここでは一人のユダヤ人が石を投げ、杖を握ったステファノが膝を折っています。

3.聖ステファノの墓の発見

エルサレムの司教ルシアンは、神からの夢のお告げに従って、ユダヤの長老ガマリエルの墓を探します。その時、ガマリエルの墓の隣にあるステファノの墓を発見したのでした。登場人物の表情がみな嬉しそうなのはそのためです。

4.聖ステファノの移葬

司教ルシアンはステファノの遺骸をシオン(エルサレム)の教会に移葬します。写っていませんが、ルシアンは後にいます。十字架を先頭に棺を担いだ聖職者かちが楽しそうに歩みを進めています。棺には文様のある絹織物が掛けられています。

5.受胎告知

後陣の内側にある柱頭です。マリアは神殿の椅子に座って、突然現れた大天使ガブリエルの祝辞に驚きの表情で聞き入っています。ガブリエルは伝令の棒を左手に持ち、右手で天を指さしています。神聖なドラマが静かに演じられています。

6.キリストの降誕とマギの礼拝

柱頭の右側にはキリストの降誕の場面が刻まれていますが、左には三人のマギの姿があります。マギたちはイエスが生まれて2週間ほど後に訪問していますから、幼子がまだ秣桶の中にいても不思議ではありません。ご公現を表現する珍しい構図です。

7.神殿への奉献

キリストの降誕を神殿で長年待っていたシメオンが、聖母が差し出す幼子を嬉しそうに受取っています。受渡しは祭壇の上で行われています。幼子がやがて人々のために犠牲となるのを予示しているのです。シメオンの後には女預言者アンナがいます。

8.エジプトへの避難

ヨセフが先頭に立ち、聖母マリアと幼子を乗せた驢馬の手綱を引いています。お腹がすいたのでしょうか、幼子は母の胸に手を当てています。背後にいるのは召使でしょう。それにしても、大きな耳の少し太めの驢馬の可愛いこと。

9.キリストの磔刑

磔刑を刻む柱頭は多くありませんが、これは傑作です。中央の磔刑のキリストはオーヴェルニュの木彫像を思い出させます。両側には槍持ちと海綿持ちが配置され、シンメトリな構図になっています。見えませんが、両側にマリアとヨハネが立っています。

10.十字架降下

磔刑に続く場面の柱頭です。ニコデモはキリストの両手の釘を引き抜いています。アリマタヤのヨセフはキリストの身体を抱えています。キリストの右手に接吻しているのは頭にヴェールを被った聖母マリアです。背後には天使の姿が見えます。

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