池田健二氏のロマネスク写真館24回目の投稿となります。
池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。
第24回のテーマ-「コンクのロマネスクのタンパン10選」
南フランスのルエルグ地方の山中。急な斜面に張り付くように古い家並みが広がるコンクの村に、素晴らしいロマネスク教会が建っています。
9世紀にこの地に創建された修道院は聖女フォワの遺骸がもたらす奇跡を喧伝することで発展し、12世紀にはル・ピュイを発ってゴンポステーラに向う巡礼たちの重要な拠点となりました。その時代に巡礼路様式のロマネスクの名建築、サント・フォワ教会が建設されたのでした。
このサント・フォワ教会の西正面に、キリストによる「最後の審判」を刻んだ有名なタンパンがあります。そこには『マタイの福音書』でイエスが弟子たちに語った審判の図像が、巧みな浮彫によって、見事に表現されています。
各図像にはラテン語の銘文による解説まで入っています。タンパンには大勢の聖人たち、天使たち、悪魔たち、義人たち、罪人たちが登場しますが、それぞれの表情は個性的で、愛嬌があり、見る人を驚かせ、楽しませてくれます。今回はこのコンクのタンパンの10選をお届けします。
1.コンクのタンパン
1130年頃に完成したタンパンで、ヴェズレーやオータンのタンパンと同時代のロマネスク作品です。中央の審判者キリストの右手には義人たちの列や天国が配され、左手には罪人たちの世界や地獄が置かれています。「羊たちを右に、山羊たちを左に」との『マタイによる福音書』の記述に従った構成で、浮彫の保存状態もほぼ完璧です。
2.審判者キリスト
審判ために再臨したキリストが中央に堂々と座し、右手を挙げて義人たちを祝福し、左手を下げて罪人たちを呪っています。光背に添えられた巻物の銘文にも、右側には祝福された人々に御国を受け継ぐよう求める言葉があり、左側には呪われた人々に離れ去るよう命じる言葉があります。キリストの顔は荘厳でもあり、人間的でもあります。
3.十字架を掲げる天使
キリストの頭上には十字架を持って雲間から下る二人の天使の姿があります。これは磔刑の十字架で、この審判者が十字架上で犠牲となったキリストであることを明示しています。天使たちが手にしているのは受難具である槍と釘です。銘文には「(主が来たりて人を裁くとき)この十字架のしるしが空に現れる」と刻まれています。
4.義人たちの列
天国が約束されている義人たちの先頭に立つのは聖母マリアと聖ペトロです。二人の役割は人々の願いをキリストに取り次ぐことです。それに続くのが修道院の創建者の隠修士ダドン、教会の建設者の修道院長オドルリク、寄進者のシャルルマーニュです。義人たちの頭上の巻物には謙遜、不屈、慈愛、信仰、希望の美徳が列挙されています。
5.罪人たちの世界
キリストの左手の側に展開するのは罪人たちの世界ですが、審判者と罪人たちの間には四人の天使が配置されています。二人の天使たちは審判を補佐し、残る二人の天使たちは罪人の世界を見張っています。審判者は「離れ去れ」と命じている訳ですから、すぐ近くに罪人の世界を置くのは良くないと考えたのでしょう。
6.罪人たちの世界の詳細
罪人たちの世界にはさまざまな身分や職業の男女が登場します。彼らはみな悪魔たちに責め苛まれています。向って右端の罪人は大酒飲みで、逆さ吊りにされながらまだ酒を飲もうとしています。その上には贋金造りの姿があります。左には冠を被った裸の王の姿があります。悪魔の仕種や表情もさまざまで、まるでアニメの一場面のようです。
7.魂の計量・天国と地獄の入口
キリストの足元では大天使ミカエルが天秤を手にして悪魔と対峙しています。天秤皿には死者の魂が載っています。「魂の計量」はどうもエジプト神話から来た図像のようです。その下には天国と地獄を分ける壁があり、天国では天使が義人たちを迎え入れ、地獄では悪魔が怪獣レヴィアタンの口となった地獄の入口に罪人たちを押し込んでいます。
8.天国
天国はアーチで囲まれた建築物の姿をしています。『ヨハネの黙示録』に出てくる「天上のエルサレム」をイメージしたのでしょう。その中央にはアブラハムが座し、罪なき幼子の魂を慰撫しています。その左右には殉教者や預言者の姿があります。向って左側の二つのアーチの中に刻まれているのは「賢い乙女」たちです。天国は静寂の世界です。
9.神に祈る聖女フォワ
天国のすぐ上の小さなスペースに神に祈る聖女フォワの姿があります。聖女はアーチに囲まれた玉座から立ち上がり「神の手」の前にひれ伏しています。アーチをつなぐ柱には手枷や足枷が下がっていますから、聖女は捕らわれた人々の解放を祈っているのでしょう。黄金座像の聖女フォワが席を立ち、神に祈っているのです。
10.地獄
地獄に展開するのは阿鼻叫喚の世界です。中央には魔王サタンが座し、手下の悪魔たちが罪人たちをいたぶっています。落馬する騎士は傲慢、裸の女性と共に縄をかけられた修道士は姦淫、魔王の足元には怠惰、巾着を首に下げた吝嗇、舌を抜かれる誹謗、他にも高慢、憤怒、大食などの罪人の運命が、実に生き生きと刻まれています。
今年の「ロマネスク10選」を、このコンクのタンパンで締めくくります。一年間で20編以上の「10選」をお届けしてきましたが、お楽しみいただけたでしょうか。
「10選」の主題や素材はまだまだ手元にたくさんあります。来年も「10選」は続いてゆきます。「旅の学校」の講座や「ロマネスクの旅」の企画も、いっそう充実したものにするつもりです。来年も引き続き、よろしくお願いいたします。
私は朝日カルチャーセンターの新宿教室、横浜教室、立川教室、中之島教室でもロマネスクの講座を担当しています。お申込みいただけば、いつでも受講が可能です。朝日カルチャーセンターの講座については下記からご覧ください。
グローバル研修企画では、月に一回池田健二氏を講師に迎え「旅の学校」を開催しています。
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