池田健二氏のロマネスク写真館27回目の投稿となります。
池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。
第27回のテーマ-「シャルトル大聖堂のロマネスクのステンドグラス10選」
シャルトルの大聖堂はゴシックの名建築として知られていますが、その西正面は12世紀中頃に完成したロマネスク建築です。西正面下段の「諸王の門」を飾る人物円柱とタンパンの浮彫、中段の壁にある三つのランセット(槍の穂先形の窓)を飾るステンドグラスも同時代の作品です。13世紀のゴシック芸術の華とされているステンドグラスですが、その技術は12世紀のロマネスク芸術の中ですでに完成していました。
とはいえ、ロマネスクのステンドグラスとゴシックのステンドグラスでは異なる点もあります。ロマネスクのステンドグラスでは、全体を細かく分割する鉄の枠組みや、その中に物語を描き出す鉛の枠が比較的シンプルなのです。ゴシックになるとそれが複雑化してゆきます。壁画や彫刻と同じ傾向がステンドグラスにも見てとれるのです。
西正面の三つのランセットのステンドグラスはそれぞれに異なる主題が描かれています。北のランセットは「エッサイの木」、中央のランセットは「キリストの降誕の物語」、南のランセットは「キリストの受難と復活の物語」です。今回の10選では中央のランセットに展開する「キリストの降誕の物語」の諸場面を紹介します。
1.西正面中央のランセット
中央の大きなランセットは9段からなり、各段は方形と円形の枠で細かく区切られています。その下から6段目までに降誕の物語の諸場面が展開しています。7段目と8段目は宣教と受難の物語から主題が選ばれていますが、今回は割愛します。図像の展開の順は規則的です。下から上へ、左から右へと物語が展開してゆくのです。
2.受胎告知
おなじみの「受胎告知」の場面です。左側に伝連の棒を持った大天使ガブリエルが立ち、マリアに祝詞を伝えています。マリアが神の子を授かることを告げる「天使祝詞」です。右側ではマリアが驚いて立ち上がっています。胸に書物を抱いていますから、読書中だったのでしょう。背景の赤と天使とマリアの衣の青が印象を強めています。
3.エリサベト訪問
さて、どちらがマリアでどちらがエリサベトでしょうか。左隣の枠が「受胎告知」ですから、やはり左がマリアなのでしょう。マリアの服の色がずいぶん地味です。旅の装束だからでしょうか。顔も少し違っています。後の時代に修復のされたからです。年上のエリサベトの方が少し大きく描かれています。静かで穏やかな挨拶の場面です。
4.羊飼いへのお告げ
神の子の誕生の知らせは、まず最初にベツレヘム近くの野にいた羊飼いに届けられます。ここでは二人の天使が夜空に現れ、そのニュースを伝えています。三人の羊飼いたちは、それぞれに杖を持ち、肩にはずた袋を下げて、そのニュースに聞き入っています。足下には羊と牧羊犬が座っています。犬種は何でしょうか。
5.ヘロデ王の前に立つマギ
マギたちは生まれたばかりの神の子を探して旅に出ます。そしてまずヘロデ王を訪れて、その場所を尋ねたのでした。ヘロデにとってこの情報は初耳です。マギたちには発見したらその場所を報告するよう命じ、配下の学者たちに大急ぎでその場所についての記述がないか、本を調べさせます。ヘロデ王の人相が悪いですね。
6.マギへの夢のお告げ
この下の枠には「マギの礼拝」があります。礼拝を終えたマギたちは、旅の疲れが出たのか、休んで眠り込みます。そのとき、マギの夢に天使が現れて、重要なメッセージを告げたのでした。ヘロデ王に報告せずにまっすぐ国に帰るようにと。一つのベッドに三人が一緒に寝ている構図が多いのですが、ここではバラバラです。
7.神殿への奉献
この四角い枠(メダイヨン)が場面の中心です。登場人物は三人。右に神殿で長く救世主の誕生を待っていた老シメオン。左に幼児イエスを祭壇の上でシメオンに手渡す聖母マリア。中央の幼児の顔が少し違いますね。やはり修復で顔が変わったのでしょう。左隣には神殿への捧げ物の鳩や蝋燭を持った三人の召使が続いています。
8.幼児虐殺
マギたちはヘロデ王にイエスの降誕の場所を告げずに国に帰ってしまいました。怒った王は同じ頃に生まれた幼児の皆殺しを兵士に命じます。イエスは「ユダヤの王」になると預言されていたので、将来のライバルを消そうとしたのです。右側のメダイヨンでは兵士が幼児を殺めようとしています。母親は悲嘆にくれています。
9.エジプトへの避難
イエスの父ヨセフは天使のお告げで幼児虐殺の計画を知ります。そこで聖母マリアと幼児イエスを驢馬に乗せ、急いでエジプトに逃れます。「エジプトへの避難」です。そのとき、エジプトのソティナの町で人々から歓迎されます。左のメダイヨンにはその町と歓迎する人々の姿があります。幼児イエスは手を挙げて彼らを祝福しています。
10.聖母子
このランセットの頂上に聖母子が描かれています。「キリストの降誕」が主題ですから、当然なのですが、シャルトルの大聖堂そのものが聖母崇敬の聖地であったことを思い出す必要があります。同じ姿の聖母子が、入口のタンパンに、周歩廊のステンドグラスに、地下の壁画に、繰返し描かれています。その起源は木彫の「地下の聖母」でした。
私は朝日カルチャーセンターの新宿教室、横浜教室、立川教室、中之島教室でもロマネスクの講座を担当しています。お申込みいただけば、いつでも受講が可能です。朝日カルチャーセンターの講座については下記からご覧ください。
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