モザの修道院教会のロマネスクの柱頭10選┃ロマネスク写真館

池田健二氏のロマネスク写真館25回目の投稿となります。

池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。

目次

第25回のテーマ-「モザの修道院教会のロマネスクの柱頭10選」

オーヴェルニュの州都クレルモン・フェランの近く。 今はリオンの町に組み込まれているモザに、長い歴史を秘めた修道院の教会が建っています。修道院は6世紀前半に聖カルミニウスとその妻が創建したもので、9世紀にはペパン2世から聖オストルモワンヌの聖遺物を贈られ、王立の修道院に発展します。しかし、10世紀には修道院は混乱し衰退してしまいました。

11世紀になってその修道院を再興したのがクリュニー修道院でした。12世紀には聖ペトロに捧げる新教会がロマネスク様式で建設され、内部は美しい柱頭で飾られます。しかし,15世紀の地震で身廊の天井と周歩廊を具えた内陣は崩壊してしまい、ロマネスクの建築は大きく損なわれてしまいました。

それでも、内陣にあった三つの柱頭は保存されていますし、身廊には47の柱頭が残っています。その作風は素晴らしく、説話的な柱頭の登場人物の表情には生命感が満ちています。また、ギリシアやローマの神話から抜け出してきたような図像の柱頭があることでも知られています。今回の10選はこのモザのサン・ピエール修道院教会に残る柱頭です。

1.キリストの復活

かつて内陣を飾っていた「キリストの復活」を刻む柱頭が、今は身廊に置かれています。ここで香油を手にしてキリストの墓を訪れた聖女たちに、空の墓の前に座った天使が、主の復活を告げています。先頭に立つ聖女はマグダラのマリアでしょう。後ろには残る二人の聖女たちが続いています。マグダラのマリアの静かな面差しが印象的です。

2.アトラス

これも内陣を飾っていた柱頭です。その四隅には四人の裸の若者たちが刻まれています。それぞれの表情や髪形は異なっていますが、両膝を地面に付けて両手で葡萄を掴む姿勢はみな同じです。ギリシア神話に登場する天空を背負うアトラスから着想された図像でしょう。四人の若者それぞれの表情と肉体は生命感に満ちています。

3.四方の風を押さえる

教会の内陣に置かれている柱頭で、これも内陣を飾っていたものです。刻まれているのは『ヨハネの黙示録』の7章に記された、天使が四方から吹く風を押さえるという場面です。柱頭の四隅にはそれぞれに表情も髪形も異なる天使たちが立ち、四方からの風を象徴する裸の人物たちの口を押さえています。その構図は見事です。

4.葡萄を摘むケンタウロス

上半身は人間で下半身は馬であるケンタウロスはギリシア神話に登場する怪物です。キリスト教でも人間の中に潜む野性や獣性を象徴する存在で、肉欲や傲慢の寓意とされています。しかし、このケンタウロスは知的な表情の若者のとして表現されていて、野蛮なようすはありません。ギリシア彫刻を想わせる丹精な作風の柱頭です。

5.水を飲むグリフォン

オリエントに由来する怪物で、ライオンの体にワシの嘴と翼を持つグリフォン。強力な見はり役で、ギリシアでは神殿の屋根を飾っていました。初期キリスト教の時代には壺から水を飲むグリフォンが石棺に刻まれていましたが、ここでは壺が聖杯に姿を変えています。その姿は優美で力強く、オリエントの神殿から抜け出してきたかのようです。

6.ヤギに跨がる男

ヒツジは義人の象徴ですが、ヤギは罪人の象徴とされることがあります。貪欲で不純な生き物と見なされてきたのです。ここでは向かい合う二頭のヤギに二人の男が跨がっています。一人は王でしょうか。冠を被っています。もう一人は修道士のように見えます。悪の力を制御しているのでしょうか。真相は謎のままです。

7.魚に跨がるトビア

ロマネスクの柱頭には大きな魚を担いだ男がしばしば登場します。旧約聖書『トビア記』にある父トビトと息子トビアの物語から来た図像です。魚に跨がるトビアが手にしているのは魚の肝臓で、トビアはその油で失明した父の眼を癒したのでした。反対側にはライオン倒すサムソンの姿があります。ユーモラスな図像です。

8.怪魚に呑み込まれるヨナ

旧約の『ヨナ記』の物語を描いた図像は、初期キリスト教の時代から愛好されていました。怪魚に呑み込まれたヨナが三日後に吐き出される出来事が、キリスト復活の予型とされたからです。神の命令に従わずに旅に出たヨナは、嵐に襲われた船中でそのことを告白し、海に投げ込まれて怪魚に呑まれたのでした。ヨナのお尻が可愛いのです。

9.牢獄から脱出する聖ペトロ

新約の『使徒言行録』に聖ペトロが宣教中に捕らえられ、牢獄に繋がれる話があります。そのとき、神は天使を遣わしてペトロを牢獄から救い出したのでした。この柱頭では牢獄で眠っていたペトロを天使が起こしている場面が刻まれています。後ろの方では槍を持った番兵が眠り込んでいます。静かなドラマが巧みに表現されています。

10.葡萄を摘む男

ここには葡萄の収穫の場面が刻まれています。葡萄は豊かに実っていて、黒い色も良く残っています。ロマネスクの柱頭はどれも彩色されていました。葡萄からはワインが醸造されます。ワインはキリストの血を象徴しています。この場面にはどのような宗教的な意味が秘められているのでしょうか。それにしても見事な造形です。

私は朝日カルチャーセンターの新宿教室、横浜教室、立川教室、中之島教室でもロマネスクの講座を担当しています。お申込みいただけば、いつでも受講が可能です。朝日カルチャーセンターの講座については下記からご覧ください。

グローバル研修企画では、月に一回池田健二氏を講師に迎え「旅の学校」を開催しています。
随時お申込みを受け付けております。受講を希望される方は下記の問い合わせフォームまたは、お電話にて担当:鹿野または澤井までご連絡ください。電話番号:03-6447-4010

池田健二氏同行の旅「ロンバルディア・アルトアディジェ ロマネスクの旅」申込受付中です。

詳しくは下記をご覧ください。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次