パンプローナ大聖堂の回廊の柱頭10選┃ロマネスク写真館

池田健二氏のロマネスク写真館21回目の投稿となります。

池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。

目次

第21回のテーマ-「パンプローナ大聖堂の回廊の柱頭10選」

スペインのナバラの州都パンプローナには12世紀に素晴らしいロマネスクの大聖堂が建っていました。その大聖堂は14世紀末にゴシックで建て替えられてしまいましたが、12世紀の大聖堂の回廊を飾っていた柱頭のいくつかは、今もパンプローナのナバラ美術館に保存、展示されています。

柱頭には装飾的な文様を刻むものと、説話的な場面を刻むものがあります。説話的な柱頭は「キリストの磔刑」を刻むもの、「キリストの復活」を刻むもの、ヨブ記を刻むものの三つです。どの柱頭も、その場面が柱頭の四面に展開しています。

浮彫の作風は極めて繊細で、図像の構成は精緻です。トゥールーズのオーギュスタン美術館にあるサン・セルナン教会の回廊から出た柱頭の作風に似ています。中世のパンプローナには新たに移住した人々の住む「サン・セルナン地区」があったそうですから、やはりトゥールーズの彫刻家が刻んだのでしょう。

今回の写真はモノクロです。それには理由があります。柱頭は高い台の上の緑のガラス板に載せられていて、そのガラスの下から照明されています。下からの光も浮彫の照明として良くないのですが、ガラス板を通した緑の光が柱頭を奇妙な色に染めてしまうのです。そのため、カラーで撮るとひどい色になります。だからモノクロなのです。

1.ユダの接吻とキリストの就縛

「キリストの磔刑」を刻む柱頭の最初の場面は「ユダの接吻とキリストの就縛」です。浮彫の線は繊細で鋭利。場面の構成はダイナミックで緊張感に満ちています。ユダは首から巾着を下げています。側面には「マルコスの耳を切る」も刻まれています。

2.十字架降下

「キリストの復活」を刻む柱頭は「十字架降下」の場面で始まります。ニコデモがイエスの手に打たれた釘を抜き、アリマタヤのヨセフがイエスの体を抱き下ろしています。左側の二人の女性は顔が破損しています。マリアとマグダラのマリアでしょうか。

3.キリストの埋葬

この場面がロマネスクの柱頭に現れるのは稀です。ここでの特徴は全体に広がる布のドレープの柔らかな表現です。キリストの遺体を包む屍衣もそうですが、石棺の蓋にも布が絡みつき、石棺からも布が溢れだしています。ユニークで見事な造形表現です。

4.キリストの復活

埋葬に続くのがこの場面です。左にキリストの墓を訪れる聖女たちの姿があります。右では天使がキリストの復活を告げています。面白いのは聖女と天使が協力して石棺の蓋を開き、空であることを確認していることです。下には眠り込んだ警備兵の姿があります。

5.弟子たちにキリストの復活を知らせる

復活したキリストと出会ったマグダラのマリアは、ペトロらの弟子たちに急いでその復活を知らせます。ここでは香油の壺を手にしたマグダラのマリアがペトロに話しかけ、ペトロは驚いた表情と仕種でその知らせを聞いています。後ろに他の弟子たちがいます。

6.ヨブ記の柱頭

旧約の『ヨブ記』に記されたヨブの物語はトゥールーズのオーギュスタン美術館にある二つの柱頭にも刻まれています。それに触発されての作品と思いますが、場面構成の巧みさや造形表現の完成度の高さにおいて、これに勝る柱頭は他にありません。

7.豊かで幸せなヨブ

ヨブは神への捧げ物を欠かすことのない信仰深い人で、多くの家族と使用人に囲まれ、多くの家畜を持って、豊かで幸せに暮らしていました。その場面を刻んでいます。建物のアーチの上が家の中、下が屋外でしょうか。左上でヨブが神に祈っています。

8.ヨブの災い

神はサタンとの会話をきっかけに、サタンに委ねてヨブの信仰を試すことにします。ヨブは敵や神の火で家畜や召使を失い、大風による家の倒壊で家族を失います。ここでは悪魔が大風で家を打ち壊し、家族が命を失う場面が大胆な構図で表現されています。

9.灰の上で皮膚病に苦しむヨブ

すべてを失ったヨブは重い皮膚病を患い、灰の上で苦しみます。妻は神を呪いますがヨブの信仰は揺るぎません。ヨブは訪れた三人の友人と信仰を論じ合います。神はヨブの無垢な信仰を確認したのでした。ここでは皮膚病のヨブが異時同図で二度登場します。

10.幸福と繁栄を取り戻したヨブ

試練に耐えて信仰を保ったヨブを祝福した神は、ヨブに再び家族と財産をもたらします。ここでは雲のような帯の上に祝福されて栄光を帯びたヨブの姿が刻まれています。その下には建物のアーチがあり、ヨブが大勢の家族と共に食卓についています。

いかがでしたでしょうか。次回も是非ご覧ください。

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