フランス・ロマネスクの絶景10選┃ロマネスク写真館

池田健二氏がロマネスク写真館として連載することになりました。

池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。

目次

池田健二氏 ロマネスク写真館開館にあたってのごあいさつ

「ロマネスク写真館」-開館のあいさつ

池田健二氏

美旅のホームページに掲載しました旅日記、楽しんでいただけたでしょうか。

あの旅日記に引き続いて、美旅のページ上に「ロマネスク写真館」を開館します。

今、私の手元には、ここ15年間の旅で撮影したロマネスクに関するデジタル写真が数十万枚あります。

その中からテーマごとに10枚を選び、短い解説を付けて掲載するというのが、「ロマネスク写真館」の基本的な構想です。

重要なのはどういうテーマを立てるかです。ロマネスク建築のさまざまな美についてのテーマ、たとえば鐘塔であったり、後陣であったり,回廊であったり。

また、ロマネスクの柱頭やタンパンのさまざまな図像についてのテーマ、たとえばキリストの生涯の各場面であったり、創世記の諸場面であったり、聖人たちの物語であったり。ロマネスクの壁画の図像や画風についてのテーマであったり。

いずれにせよ、各テーマについて傑作の10点を選び出して、「ロマネスクの○○-10選」として掲載します。どうぞお楽しみください。

今回のテーマ-「フランス・ロマネスクの絶景-10選」

長期にわたるシリーズとなります。

何から始めるか頭を痛めましたが、「フランス・ロマネスクの絶景10選」を幕開けとします。

ロマネスク世界を旅していると、あまりの素晴らしさに我を忘れて見ほれてしまう絶景に出会うことがあります。

もちろんロマネスク教会のある風景です。その瞬間、全身が至福感で満たされるのです。どの場所どの教会を選ぶか、迷いに迷いましたが、まずはこの10選をご覧ください。

1.ヴェズレーのサント・マドレーヌ教会

ブルゴーニュのモルヴァン山地北部の「聖なる丘」の上に、フランス・ロマネスクを代表する教会が建っています。聖女マグダラのマリアへの巡礼で、またサンティヤゴ巡礼の起点として繁栄した修道院の教会です。ナルテックスを飾るタンパンや身廊に列をなす柱頭の浮彫の美しさでもその名を知られています。写真は谷を挟んで西側にある高台からヴェズレーの丘と教会を遠望したものです。

2.パレ・ル・モニアルのサクレ・クール教会

南ブルゴーニュの小都市で、ブールバンス川に教会の姿映るロマネスク教会の姿が印象的です。聖心(サクレ・クール)に捧げられた教会は聖心信仰の中心として巡礼で賑わっていますが、中世には聖母に捧げるクリュニー派の女子修道院の教会でした。その建築は、革命で破壊されたクリュニー修道院の大教会のミニチュア版と言われています。ロマネスクの貴重な建築遺構です。

3.オルシヴァルのノートルダム教会

オーヴェルニュのマッシフ・サントラル(中央山塊)の浅い谷に隠れるように、聖母崇敬の場であったオルシヴァルの教会が静かにたたずんでいます。グレーの安山岩で築かれた堅固な教会で、放射状の祭室、周歩廊、翼廊、交差部の塔が重なり合う後陣外構えは、ロマネスクの建築美の究極です。祭壇の後には12世紀から人々の崇敬を集め続けている木彫のマリア像が安置されています。

4.コンクのサント・フォワ教会

ルエルグの山中に孤立する小さな村に建つ教会ですが、聖女フォアの崇敬の地として、またサンティヤゴ巡礼の宿場として、その名は中世のキリスト教世界に広く知れ渡っていました。「最後の審判」を刻むタンパンや巡礼路様式の教会はロマネスクでも屈指の傑作です。村に上ってゆく巡礼路の脇に建つサン・ロッシュ礼拝堂のテラスからは、鄙びた村の家並みに囲まれた教会の全貌を望むことができます。

5.ショーヴィニーのサン・ピエール教会

ポワトゥーの小都市ショーヴィニーは上の町と下の町に分かれています。上の町には中世の城砦とロマネスクの教会が建ち並び、いかにも中世らしい景観を生み出しています。教会の内陣は、黙示録から抜け出してきた怪物たちや、「受胎告知」や「マギの礼拝」を刻む柱頭で飾られています。創世記の諸場面を描く天井画で有名なサン・サヴァンの修道院教会と共に訪れたいものです。

6.ロッシュのサン・トゥルス教会

ロワール川の支流アンドル川の岸にあるロッシュは、高台に建つロマネスクの城砦と教会を中心とする町です。どちらもこの地の白い石灰岩による建築で、周囲の家並みと美しい調和を見せています。大小の三後陣と交差部の塔からなる後陣外構えはロマネスク建築としてオーソドックスですが、身廊は八角形のユニークな連続円蓋を戴いています。ロワールの谷でもとりわけ魅力的な教会です。

7.リシェールのサン・ドニ教会

アキテーヌのシャラント県の穏やかな田園に孤立する堅固なロマネスク教会です。12世紀に小修道院の教会として創建されましたが、修道士は立ち去り、交差部の鐘塔も崩壊してしいました。それでも、円柱に支えられた身廊やアーケードに縁取られた後陣は今もロマネスクの姿をとどめています。周囲に広がる畑にひまわりが咲く夏に訪れたいものです。このときは開花まであとひといきでした。

8.サン・マルタン・デュ・カニグー修道院

ルシヨンの高峰カニグー山の中腹に千年前に創建された修道院です。創建者はこの地の伯ギフレ2世で、その弟の司教オリバが教会を聖別しています。修道院は革命で廃止され、荒廃が進んでいましたが、20世紀初頭に復興して現在の姿を整えました。修道院までは麓の駐車場から徒歩で30分ほど山道を登ります。眼下に絶景が広がるこの撮影ポイントまでは、さらに5分の登りです。

9.ミュルバックのサン・レジェ修道院教会

アルザスのヴォージュ山塊の渓谷に建つ教会で、この地の赤い砂岩の建築が周囲の緑と美しい対比を見せています。8世紀に創建された修道院は、カロリング朝やオットー朝の保護のもとで発展し、おおいに繁栄しました。教会は12世紀に建設されたロマネスク建築です。17世紀の戦乱で荒廃が進んだため、現存するのは方形の後陣、翼廊、二本の鐘塔だけですが、その堅固な構成は見事です。

10.ポールバイユのノートルダム教会

ノルマンディのコタンタン半島の西岸にある小さな港町ポールバイユの水辺に建つ小教会です。古代よりブリタニアに向う船が出る場所だったようで、近くにはローマ時代の浴場の跡も残っています。教会は単身廊、翼廊、大小の後陣からなる堅固なロマネスク建築で、無骨な鐘塔は入港する船にとって重要なランドマークでした。近くに架かる橋まで歩くと水辺に建つ教会を遠望することができます。

いかがでしたでしょうか。「ロマネスク写真館」を毎週アップ予定です。

次回も是非ご覧ください。

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