ロマネスクのファサード10選┃ロマネスク写真館

池田健二氏のロマネスク写真館6回目の投稿となります。

池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。

目次

第6回のテーマ-「ロマネスクのファサード10選」

ファサードとは顔を意味するファスから派生した言葉です。つまり教会の顔となる扉口のある場所です。

ロマネスク教会は基本的に祭壇のある後陣を東に置きますから、ファサードは教会の西にあるのが普通です。西正面と言ってもいいのですが、教会の顔に相応しい装飾が施されている場合はファサードという言葉を用いたくなります。

ゴシックの教会と比べて外壁の装飾に乏しいロマネスクの教会ですが、それでも西南フランスや北イタリアでは美しく装飾されたファサードを持つロマネスク教会に出会うことがあります。

今回はそうした中から10の教会を選び出し、そのファサードを紹介します。

1.ポワティエのノートルダム・ラ・グランド教会のファサード

西南フランスのポワティエの旧市街には数多くのロマネスク教会が保存されていますが、最も有名なのがノートルダム・ラ・グランド教会です。両側に鱗状の屋根を戴く塔を従えたファサード。下段には細かい浮彫に縁取られた扉口と飾りアーケードがあり、上部に「キリストの降誕」の諸場面を刻む浮彫が展開しています。中段のギャラリーには使徒たちや司教たちの姿。上段のメダイヨンには昇天するキリストの姿が刻まれています。ロマネスクでは珍しい華やかなファサードです。

2.サン・ジュアン・ド・マルヌ教会のファサード

ポワティエの北西50㎞のサン・ジュアン・ド・マルヌに、サンティヤゴに向う巡礼も立ち寄ったベネディクト会修道院の教会があります。そのファサードはかなりユニークです。下段には装飾文様を刻むアーチに縁取られた大小三つの扉口。中段には浮彫に飾られたアーチを戴く大小三つの窓。上段には審判者キリストが座していて、足元の聖母マリアの左右には裁きを受ける人々や巡礼が列をなしています。左右の塔はこの地域の教会に特徴的な建築表現です。

3.アングレームのサン・ピエール大聖堂のファサード

西南フランスのサントンジュの東隣にアングーモワと呼ばれる地域があります。その主邑アングレームの大聖堂は、何段にも重なる浅いギャラリーの中にさまざまな主題の浮彫が展開する、壮大な構想のファサードを持っています。中央上部のキリストは昇天しているようにも見えますし、審判のために再臨しているようにも見えます。ギャラリーに刻まれているのは使徒たち、天使たち、悪魔たちです。

4.トゥールニュのサン・フィリベール教会のファサード

南ブルゴーニュのトゥールニュに建つサン・フィリベール教会は紀元千年に建設された初期ロマネスクの名建築です。北イタリアから招かれた建築家の作品で、城壁のようなファサードが見る人を圧倒します。しかし、ピンクがかった石灰岩の明るい色合いと、浅いロンバルディア帯が壁に刻む静かなリズムが、その威圧感を和らげています。北側の上部にそびえる塔は12世紀に増築されたものです。

5.モデナのサン・ジェミニアーノ大聖堂のファサード

北イタリアのエミリア街道に建ち並ぶ大聖堂はどれも美しいファサードを誇っています。なかでもモデナの大聖堂は傑出しています。12世紀の建築家ランフランコは三連の小ギャラリーを包み込むアーケードで正面を含む教会の壁面全体を装飾します。13世紀になるとカンピオーネの建築家が中央にバラ窓とプロテュルム(小さなポーチ)を増設しました。彫刻家ヴィリジェルモの手になる『創世記』の浮彫も見事です。

6.ルッカのサン・ミケーレ・イン・フォロ教会のファサード

トスカーナの町ルッカの中央広場に建つサン・ミケーレ・イン・フォロ教会。そのファサードは13世紀初頭にグイデット・ダ・コモが手がけたもので、下段には浅いアーケード列が続く壁面があり、中段から上段にかけては深いアーケード列が小さなリズムを刻んでいます。その柱や壁面は白い大理石と緑の蛇紋石による繊細な象嵌文様で装飾されています。ルッカならではの壮麗で優美なファサードです。

7.ルッカのサン・フェデーレ教会のファサード

同じルッカにありながらサン・フェデーレ教会のファサードはまったく印象が異なります。大きな白鳥が羽根を広げいてるような姿をしているのです。白い大理石の壁面は無装飾で、小さな円窓と三つの扉口だけがアクセントになっています。中央の上部には古代風の列柱があり、上の壁面は「キリストの昇天」を描くモザイクで埋め尽くされています。その豪快で優美なファサードはルッカのもう一つの美です。

8.バーリのサン・ニコラ教会のファサード

南イタリアのプーリアの港町バーリに聖ニコラへの巡礼で栄えた教会が保存されています。1087年、セルジューク・トルコの進攻により東方のミュラに放置されていた聖ニコラの遺骸をバーリの船乗りがここに持ち帰ります。教会の建設はすぐに始まり、白い大理石のファサードが美しい巡礼教会が完成したのでした。南北に予定されていた塔は未完のままですが、浅いアーチに装われたその姿は堂々としています。

9.ヴィラスペチオーサのサン・プラターノ教会のファサード

サルデーニャ島の南部、ヴィラスペチオーサの町の郊外に不思議な教会が孤立しています。二廊式の小教会ですが、そのファサードが何とも個性的なのです。どこから持って来たのでしょうか、すべての石材がリサイクルされたもので、大理石もあれば、石灰岩もあり、玄武岩の部分もあります。扉口や窓も再利用されたものに違いありません。全体が見事なコンポジションをなしていて、まるで現代芸術のようです。

10.マリア・ラーハ修道院教会のファサード

ドイツのライン地方、ラーハ湖の岸に聖母マリアに捧げる修道院の教会があります。そのファサードの構成は複雑で、中央に方形の大きな塔が、左右に円形の小さな双塔が置かれています。中央部が円く膨らんでいるのは西側にも半円の祭室が設けられているからです。手前にあるのは大きなポーチです。壁面全体にはロンバルディア帯による装飾が走っています。ライン地方のロマネスクのファサードの傑作です。

いかがでしたでしょうか。次回も是非ご覧ください。

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