池田健二氏のロマネスク写真館26回目の投稿となります。
池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。
第26回のテーマ-「サン・ネクテール教会のロマネスクの柱頭10選」
フランス中南部のオーヴェルニュ地方。その南部にはマッシフ・サントラル(中央山地)の名で呼ばれる山並みが広がっています。その山中のサン・ネクテールの町の高台に、この地方ならではの建築様式を見せる魅力的なロマネスク教会が建っています。
教会は3世紀にこの場所で宣教し、ここに葬られた、聖ネクテールに捧げられています。12世紀中頃、この聖ネクテールへの崇敬が高まり、ラ・シェーズ・デュー修道院の支援で、バラ色と灰色の火成岩によって現在も残る教会が建設されたのでした。
教会の内部には三廊式の身廊空間が広がり、周歩廊と放射状祭室を従えた内陣がその先に続いています。この内陣は6本の円柱に取り巻かれていますが、その円柱の柱頭は説話的な図像を刻む見事な浮彫で飾られています。今回の10選はこの柱頭です。
1.サン・ネクテール教会の内陣
教会の内部は近年の修復で建設時の色彩を取り戻しました。柱頭にも色が残っています。この彩色は19世紀の修復によるものですが、12世紀の完成時から柱頭は彩色されていました。六つの柱頭にはそれぞれに主題があります。「キリストの受難」「キリストの復活」「キリストの変容」「聖ネクテールの奇跡」「ヨハネの黙示録」「最後の審判」です。
2.パンと魚の増加の奇跡
「キリストの変容」の柱頭の一面に「パンと魚の増加の奇跡」が刻まれています。キリストが大勢の人々に教えを説いていた時、手元にあった僅かなパンと魚を、大勢の人々の空腹を満せるだけの量に増やしたという奇跡を表現したものです。キリストと弟子たちがパンを持ち、テーブルには魚が置かれています。この奇跡を示す伝統的な図像です。
3.ユダの接吻とキリストの就縛
「キリストの受難」の柱頭の一場面です。中央のキリストにユダが抱きついて接吻しようとしています。夜の暗闇の中で誰がキリストであるかをユダヤ人に示す合図でした。キリストの右手はペトロが傷つけた兵士マルコスの耳に伸びています。兵士たちはみな中世の装束です。緊張感に溢れた見事な構成の浮彫です。
4.十字架を担う
「ユダの接吻とキリストの就縛」の隣に刻まれた場面です。大祭司カイアファや総督ピラトによる審問は省略されています。少し奇妙なのはイエスが担う十字架が小さいことと、十字架の左右や上の端が少し張り出していることです。儀式用の十字架の形に倣ったのでしょうか。十字架が小さいのは場面の悲惨さを和らげるためと思われます。
5.黄泉に下る
「キリストの復活」の柱頭の一場面です。「復活」は西方キリスト教世界では「墓に詣でる聖女たち」で表現されるのが一般的ですが、東方キリスト教世界では「黄泉に下る」で象徴されていました。サン・ネクテールの柱頭にはその両方が採用されています。黄泉の国の扉を打ち壊したキリストは、そこにいたアダムの手を取っています。
6.キリストの復活
同じ柱頭の「黄泉に下る」の反対側に刻まれいる場面です。キリストの死と埋葬の三日後、マグダラのマリアをはじめとする三人の聖女たちが香油を持って墓を訪れます。しかし、墓は空っぽで、天使がキリストの復活を告げたのでした。天使の後ろに空の墓と眠り込んだ兵士の姿があります。オーヴェルニュで愛された図像です。
7.不信のトマス
「キリストの復活」の後の出来事なのですが、どういう事情なのか、「キリストの受難」の柱頭の一面に刻まれています。復活を信じない弟子トマスの前にキリストが再び現れて、脇腹の槍傷に指を入れさせる有名な場面を、簡潔な構成で表現しています。その現場を目撃しているのは聖母マリアです。通常は他の弟子たちがそこにいるのですが。
8.最後の審判
この柱頭の四面に「最後の審判」の図像が展開しています。その中央に座しているのは、当然のことながら、「審判者キリスト」です。左手には審判者が磔刑となったイエスであることを示す十字架が刻まれています。槍や釘などの受難具をキリストが自分で持っているのは奇妙です。天使が持っているはずなのですが。右手には義人たちがいます。
9.黙示録の騎士
柱頭の一つは「ヨハネの黙示録」に捧げられています。その一場面がこれです。黙示録の第6章。小羊が七つの封印を解いてゆくと四人の騎士たちが出現して地上に禍をもたらします。その代表が青ざめた馬に乗って人々に死をもたらす騎士です。ここでは三本の槍を握った騎士が人々を打ち倒していますが、顔が半分だけ赤いのです。
10.聖ネクテールが死者を蘇らせる。
聖ネクテールはローマから聖ペトロによってこの地に派遣された宣教者です。柱頭の一つはその物語を刻んでいます。ここでは亡くなった地元の領主ブラルドゥスを聖ネクテールが蘇らせています。背後にはこの教会の姿がありますが、柱頭が刻まれたのは建設工事の初期段階です。着工時には木か粘土で完成模型が制作されていたのでしょうか。
私は朝日カルチャーセンターの新宿教室、横浜教室、立川教室、中之島教室でもロマネスクの講座を担当しています。お申込みいただけば、いつでも受講が可能です。朝日カルチャーセンターの講座については下記からご覧ください。
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