カタルーニャのロマネスク板絵10選┃ロマネスク写真館

池田健二氏のロマネスク写真館12回目の投稿となります。

池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。

目次

第12回のテーマ-「カタルーニャのロマネスク板絵10選」

カタルーニャでは12世紀に祭壇を飾る板絵が盛んに描かれました。信者たちの視線が集中する祭壇の正面を聖なる画像で飾ったのです。

板絵ですからフレスコ技法ではなくテンペラ技法で描かれています。顔料を蜜蝋、ニカワ、卵などの接着力のある物質と練り合わせて用いるのがテンペラです。時間を経ても変色が少なく、艶があります。

板絵の中央に描かれているのは「荘厳のキリスト」や「荘厳の聖母」です。キリストの周囲には使徒たちが、聖母マリアの周囲には「キリストの降誕」の諸場面が置かれるのが通常ですが、特定の聖人の殉教の場面が配される場合もあります。

強い色彩と線による単純化された表現はカタルーニャの壁画にも共通する個性です。温かくユーモラスな画風です。もともとは各地の教会にあったのですが、19世紀末から20世紀の初頭にかけて美術館に保存、展示されるようになりました。カタルーニャ美術館やビック司教区美術館に傑作が揃っています。

1.セウ・ド・ウルジェイ司教区の教会の板絵-カタルーニャ美術館蔵

ピレネーの山奥。アンドラに隣接するセウ・ド・ウルジェイには素晴らしいロマネスクの大聖堂がありますが、この板絵はその司教区のどこかの教会にあったものです。荘厳のキリストの左右に十二使徒が集っていますが、オレンジと黄色の鮮やかな色彩と、使徒たちの表情が魅力的です。とりわけ大きく見開いた眼に特徴があります。中央のキリストの顔には「タウイのキリスト」に似た定型の表現が認められます。

2.ドゥーロのサン・キルセ・サン・ユリッタ礼拝堂の板絵-カタルーニャ美術館蔵

ボイ谷のドゥーロの村から山道をしばらく登ると、聖キルセと聖女ユリッタに捧げるロマネスクの小さな礼拝堂が山腹に孤立しています。この板絵はその祭壇を飾っていました。赤と緑の補色を生かした画面が印象的です。中央に描かれているのが小アジアで殉教した母親のユリッタと息子のキルセの姿です。周囲には親子の拷問と殉教の場面があります。聖人の聖性はその死が残酷であればあるど高まったのです。

3.カルデのサンタ・マリア教会の板絵-カタルーニャ美術館収蔵

カルデもボイ谷の奥深くにある村で、今も素朴なロマネスク教会が残っています。板絵は13世紀初頭に描かれたもので、登場人物は小振りになり、顔の定型表現は和らいでいます。中央の聖母子は横向きですが、左下に三人のマギの姿があり、合わせて「マギの礼拝」になっています。左上に「マギの礼拝」と「エリサベト訪問」、右上に「キリストの降誕」と「羊飼いへのお告げ」、右下に「エジプトへの避難」が展開します。

4.アビアのサンタ・マリア教会の板絵-カタルーニャ美術館蔵

これも13世紀になって描かれた作品です。濃い紺と鮮やかな赤の対比を好んで用いるのがこの時期の特徴です。正面を向く聖母の表情が美しいのですが、残念ながら板に割れ目が入っています。左側の上下の場面は上のカルデの板絵と同じで、マギたちにはガスバール、メルキオール、バルタザールの名が付記されています。右上が「キリストの降誕」であるのも同じですが、右下は「神殿への奉献」に変わっています。

5.タウイのサンタ・マリア教会の板絵-カタルーニャ美術館蔵

ボイ谷のタウイのサンタ・マリア教会はカタルーニャ美術館に移された壁画で有名ですが、この祭壇の前飾りもその教会から来たものです。ここでは平面的な板絵ではなく、立体的な浮彫で「荘厳のキリスト」と十二使徒が表現されています。その上でテンペラによる彩色が施されたのでした。とはいえ、全体的な印象は板絵に似ていて、ロマネスクのアーチの中に立つ使徒たちの表情は穏やかで人間味に溢れています。

6.プッチボのサン・マルティ教会の板絵-ビック司教区美術館蔵

中央に座すキリストは「プッチボのキリスト」の名で親しまれています。その顔が何とも穏やかで、優しくて、ユーモラスだからです。大きな半円を描く眼はとりわけ印象的です。四方に描かれているのは聖マルティ(トゥールの聖マルタン)の物語です。左上にはマルタンが乞食にマントを切り与える有名な場面があります。その下に子供を蘇えらせる奇跡、右下には聖マルタンの死、右上にはその魂の昇天が描かれています。

7.ビラセカのサンタ・マルゲリータ教会の板絵-ビック司教区美術館蔵

中央には真正面を向いた聖母子の姿があります。その聖母の顔を描く筆遣いが見事です。大きく見開かれた眼、大きな曲線をなす眉、引き締まった唇、頬を飾る赤いハイライト。周囲に展開するのはアンティオキアで殉教した少女マルゲリータ(マルガリータ)の物語です。異教の総督の求婚を拒んだマルガリータは残酷な拷問を受けても信仰を捨てず、牢獄では龍に化けた悪魔に飲み込まれますが、十字を切って脱出します。

8.リュッサのサンタ・マリア教会の板絵-ビック司教区美術館蔵

紺と赤の色彩の対比や、聖母子の背後のマンドルラが四葉形であることから、リュッサの板絵は13世紀初頭の作品であるに違いありません。残念ながら聖母子の顔は絵具が剥落していますが、キリストの降誕の4場面を描く周囲の図像はよく残っています。背景が省略されているためでしょうか、登場人物の姿が浮き上がって見えます。「受胎告知」「エリサベト訪問」「マギの礼拝」、最後は「エジプトへの避難」です。

9.エスピネルベスのサン・ビセンス教会の板絵-ビック司教区美術館蔵

この板絵も13世紀の作品です。紺と赤の色彩もそうですが、登場人物が小さく描かれていることもその証です。中央の聖母の衣の白、紺、赤の対比も印象的ですが、ここでは三人のマギが左上に描かれています。先頭のマギの柄物のストッキングとガーターが気になります。右上に描かれているのは「エルサレム入城」です。下段に立ち並ぶのは預言者たちです。広げた巻物にその名が記されているので間違いありません。

10.サガスのサン・タンドレウ教会の板絵-ソルソーナ司教区美術館蔵

サガスの教会の祭壇は正面だけでなく側面も板絵で飾られていました。ソルソーナにあるのは側面の方です。この板絵はキリストの降誕の諸場面を描いたものですが、一部は失われています。「エリサベト訪問」では二人の衣の線と色の対比が見事です。「キリストの降誕」では、なぜか四人の登場人物の視線がまったく別々の方向を向いています。それにしても赤と黄で塗り分けられた背景の処理の何とも大胆なこと。

いかがでしたでしょうか。次回も是非ご覧ください。

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