池田健二氏のロマネスク写真館13回目の投稿となります。
池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。
第13回のテーマ-「長崎・五島のロマネスク教会10選」
日本にもロマネスク教会があります。もちろん、ロマネスクの時代(11~12世紀)の教会ではありません。ロマネスクの様式によって建てられた教会です。戦国時代の16世紀中頃、ザビエルをはじめとするヨーロッパの宣教師によって日本にキリスト教が布教され、教会も建設されました。
しかし、徳川幕府による禁教令(1614年)によって信仰は禁止され、すべての教会が破壊されます。教会が再び建設されたのは幕末になって日本が開国してからでした。
現存する日本で最古の教会は1865年に完成した長崎の大浦天主堂です。明治になり、1873年に禁教令が破棄されると、潜伏していたキリシタンたちがカトリック教会に復帰。来日した宣教師の指揮のもと、日本の大工によって各地で教会建設が進められます。潜伏キリシタンが多かった長崎や五島にはとりわけ数多くの教会が建設されました。そのとき、ロマネスク様式が採用されることが多かったのです。この様式が日本の信者に好まれたことは間違いありません。
日本の風景に見事に溶け込んだロマネスク教会が長崎や五島に今も点在しています。今回はそこから10の教会を選んで紹介します。
1.今村教会-福岡県三井郡大刀洗町
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今村教会が建っているのは長崎ではなく、久留米市の近くの大刀洗の田園の中です。この地にも百戸をこえるキリシタンが潜伏していて、禁教令廃止後にカトリック信仰が復活し、明治14年に最初の教会が建設されました。現在のレンガ造の教会は鉄川与助が設計・施工したもので、大正2年に竣工しています。堂々とした西正面はドイツのロマネスクを想わせますが、壁面にはロンバルディア風の装飾が使用されています。
2.黒島教会-佐世保市黒島町
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佐世保の沖に浮かぶ九十九島の中で最も大きい黒島に建つ教会です。19世紀初頭、島には周辺の各地から多くの潜伏キリシタンが移住し、明治になるとカトリック教会への復帰が進みます。教会はパリ外国宣教会のペルー神父が設計し、長崎の大工たちが施工したもので、明治35年に竣工しています。資材の運搬したのは信者たちでした。木造のリブを用いた内部の建築構成は見事で、ロマネスクの美の理想が実現されています。
3.黒崎教会-長崎市上黒崎町
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遠藤周作の『沈黙』の舞台となった外海の浦々の一つ、黒崎を見下ろす高台に建つレンガ造の教会です。設計したのは隣接する出津のド・ロ神父で、明治15年に最初の教会が竣工しました。その後、信者の増加に対応するため、明治24年には祭壇方向に空間が延長され、明治42年には玄関が増築されています。簡素な切妻の正面から中に入ると、木造のリブ・ヴォールト天井を戴く身廊が祭壇に向って長く伸びています。
4.神ノ島教会-長崎市神ノ島町
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長崎港の入口近くにある神ノ島は、禁教の時代には多くのキリシタンが潜伏していた場所です。この島にも明治9年に最初の仮教会が設けられ、明治30年には現在のレンガ造の教会が竣工しました。外壁は後に白く塗装されました。海風に耐えるためか、正面は多角形の円塔を戴く塔に守られています。内部にはおおらかな半円を描く大アーケードとリブ天井が美しい晴れやかな空間が広がっています。
5.旧五輪教会-五島市蕨町五輪
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五島列島の久賀島東岸の小さな集落に建つ教会です。明治14年に浜脇に建設され、昭和6年にこの地に移築されました。その外観はまるで古い民家のようですが、尖頭アーチを用いた窓が教会らしさを生み出しています。内部に入ると印象は一変します。すべて木造なのですが、尖頭形のアーケードとリブで構成された三廊式空間が出現するからです。アーチの形状はゴシックであっても空間の謙虚さはロマネスクです。
6.江上教会-五島市奈留町大串
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奈留島の西部、大串湾を望む江上集落の一角に建つ教会です。漁業で栄えた明治39年に最初の教会が完成。大正7年には鉄川与助の設計・施工で現在の木造の教会が竣工しました。その外壁は下見板張で、大きく張り出した軒を持送りが支えています。内部は完璧なロマネスクで、木の半円形アーケードやヴォールトがその空間に美しいリズムを刻んでいます。旧五輪教会と共に世界遺産の構成資産にも指定されています。
7.土井ノ浦教会-南松浦郡新上五島町若松郷
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上五島の若松島、土井ノ浦を見下ろす高台に建つ教会です。この地には外海から移住した潜伏キリシタンが多く、明治25年には最初の教会が建設されました。現在の教会は中通島の大曽の旧教会を移築したもので、明治末年の建築と推測されています。この教会の見所はステンドグラスです。日本の建具の技術で組まれた木の枠に色ガラスを入れたもので、木のベンチや床に美しい光りを落しています。
8.大曽教会-南松浦郡新上五島町青方郷
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中通島の青方湾の岬に建つ教会で、明治12年に最初の教会が建設されました。現在の教会は鉄川与助の設計・施工で大正5年に竣工しています。この島出身の宮大工である与助は、宣教師から西洋建築の技術を学び、貧しい信者たちのために数多くの教会を建設しました。その多くがロマネスク様式を採用しています。大曽教会でも、外部のレンガ壁の装飾や内部の木造の建築構成にロマネスクの美が表現されています。
9.頭ヶ島教会-南松浦郡新上五島町友住郷
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頭ヶ島は中通島の東にある小島で、幕末にここに移住した熱心なキリシタン、森松次郎の屋敷跡に明治20年に最初の教会が建設されました。現在の教会はやはり鉄川与助の設計・施工で大正8年に竣工したものです。教会は向かいの島で取れる石材で建設されましたが、石を運んだり刻んだりしたのは信者たちでした。石造のためか、外観はヨーロッパのロマネスク教会を想わせますが、内部は独自な装飾で仕上げられています。
10.旧野首教会-北松浦郡小値賀町野崎島
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中通島の北端に浮かぶ野崎島の旧野首集落に残る教会です。この島にも19世紀初頭に潜伏キリシタンが移住し、棚田を築いて暮らしていました。明治16年に最初の教会を建設。明治41年には鉄川与助の設計・施工で現在のレンガ造の教会が竣工しました。この教会も世界遺産の構成資産です。しかし、昭和の戦後になって離島する人が急速に増加。1971年には無人島と化してしまいました。今は教会だけが孤立しています。
いかがでしたでしょうか。次回も是非ご覧ください。