レスタニーのロマネスクの柱頭10選┃ロマネスク写真館

池田健二氏のロマネスク写真館15回目の投稿となります。

池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。

目次

第15回のテーマ-「レスタニーのロマネスクの柱頭10選」

スペインのカタルーニャ地方はロマネスク芸術の宝庫です。

11世紀には北イタリアから招かれた建築家たちがロンバルディアの様式で多数のロマネスク教会を建設しました。12世紀になるとカタルーニャのロマネスク芸術は独自の発展をとげ、壁画や祭壇板絵の傑作の数々を生み出します。各地の修道院の内部や回廊の柱頭に刻まれた浮彫も同じ時代に発展をとげたのでした。

レスタニーの修道院の回廊の柱頭は12世紀末、ロマネスクの時代の最後の頃の作品です。そこにはイエスの生涯における重要な諸場面が刻まれています。「受胎告知」に始まる降誕の物語、「キリストの洗礼」に始まる宣教の物語、「エルサレム入城」に始まる受難の物語。
どの柱頭の図像も簡素で明快であり、場面の読み解きも容易です。また、その図像がキリストの生涯を追うように順序正しく並んでいるのも旅人にとってありがたいところです。その中に、いくつかのユニークな構図の図像も入り交じっています。

今回はこのレスタニーの回廊の柱頭の10選をお楽しみください。

1.レスタニーの回廊の北辺

レスタニーはバルセロナの北の浅い谷にある寒村です。そこに12世紀末から13世紀初頭にかけて建設された小さな教会と回廊が残っています。回廊を飾るロマネスクの柱頭はどれも見事ですが、キリストの生涯を刻む北辺の柱頭はとりわけ重要です。ちょうど正午の頃、南から差し込んだ光りが床に反射して、柱頭に刻まれた物語を照らし出します。

2.受胎告知とエリサベト訪問

聖母マリアと大天使ガブリエルが向かい合って立つシンプルな構図です。マリアの耳元には鳩がいて、耳元で何かを語りかけているように見えます。福音書には「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを覆う」と大天使が語りかけたとありますから、聖霊を示す鳩なのでしょう。右に続くのは「エリサベト訪問」の場面です。

3.キリストの降誕

聖母マリアはベツレヘムの馬小屋でイエスを出産しますが、ここでは上部を大小のアーチが覆っています。ここで気になるのはヨセフです。降誕の場面にヨセフが登場する場合、座って顎に手を当て何か考え込んでいることが多いのですが、このヨセフは横たわるマリアの足元にいて、その足を優しく撫でているように見えます。

4.神殿への奉献

救世主の出現を待ちわびていた老人シメオンが、聖母マリアから幼子イエスを受け取っている場面です。イエスが祭壇の上に刻まれているのは、この幼子がやがて人々の犠牲として十字架に掛けられることを予示するためでしょう。マリアの後にいるのは神殿に奉納する山鳩を手にしたヨセフです。簡潔で明快な図像です。

5.マギの礼拝

柱頭の上部に刻まれているのはベツレヘムの町でしょうか。聖母は礼拝の対象として真正面を向いて表現されています。最初のマギは跪いてプレゼントを差し出し、二番目のマギはベツレヘムの星を指さすというのが定型表現です。マリアの肩のところに刻まれた円形のものは、マギたちをここに導いたベツレヘムの星です。

6.エジプトへの避難

この場面を刻む図像ではヨセフが驢馬の前にいて手綱を引いているのが通常ですが、ここではヨセフが驢馬の後を歩んでいます。幼子イエスは、何とマリアの乳を吸っています。この「授乳の聖母」は12世紀末に出現した図像で、シャルトルのステンドグラスにも描かれています。その表現が聖家族の旅に暖かな人間味を与えています。

7.キリストの洗礼

ヨルダン川で洗礼者聖ヨハネから洗礼を受けるイエスの姿です。胸のあたりまで川の水が盛り上がっているのは、ロマネスクの洗礼図の定型表現です。その時、天から聖霊が降ったとありますから、イエスの頭上に刻まれているのは聖霊の鳩に違いありません。ヨハネの向かいには天使がいて、シンメトリーな構図になっています。

8.荒れ野の誘惑

洗礼を受けた後、イエスは山にこもって40日間の修行に入ります。そのとき悪魔が3回現れてイエスを誘惑します。最初の誘惑では、空腹に苦しむイエスに悪魔が石を持って現れ、「神の子なら石をパンに変えてみろ」と唆します。これはその場面です。悪魔の向かいに天使を立たせたのは構図を整えるためでしょうか。

9.エルサレム入城

柱頭の逆台形の二つの空間を綺麗に整列した十二使徒たちが埋め尽くしています。その先には驢馬に跨がったイエスがいて、エルサレムに入城しています。この角度の写真を採用したのは、リズミカルに並ぶ使徒たちの造形が美しいからです。使徒たちが棕櫚の葉を手にしているのは「枝の主日」の習慣から来たものでしょう。

10.最後の晩餐

不思議な晩餐図です。使徒たちが上下二列に表現されているからです。これでは後の列の使徒たちは晩餐に与れません。柱頭の一面に使徒たちを収めるための工夫だったのでしょう。イエスの胸元に頭を寄せているヨハネ、イエスが浸したパンを差し出している相手はユダ。これはロマネスクの図像の定型表現です。

いかがでしたでしょうか。次回も是非ご覧ください。

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