池田健二氏のロマネスク写真館5回目の投稿となります。
池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。
第5回のテーマ-「ロマネスクの回廊-10選」
ロマネスクの修道院を巡っていると、素晴らしい回廊に出会うことがあります。
回廊はフランス語のクロワートル、英語のクロイスターの訳語です。
「閉じられた場所」を意味する言葉で、まさに、教会、食堂や寝室、書写室などの諸施設に囲まれた、閉じられた空間です。
機能的に見れば修道院の諸施設をつなぐ周り廊下なのですが、修道士たちの儀式と瞑想のための場所でもありました。
中央部は光溢れる中庭になっていて、アーチを連ねたギャラリーが周囲の四方に続いています。
ギャラリーの構成のさまざまも回廊の見所ですが、その小円柱とアーチをつなぐ柱頭の浮彫も魅力的です。12世紀になると、大聖堂にも回廊が設けられるようになります。参事会員たちに修道士に倣った生活が求められるようになったからです。
今回はフランスとスペインの美しい回廊の10選をご覧ください。
1.フォントネーの修道院の回廊
ブルゴーニュ北部のフォントネーの谷に、シトー派のリーダーであった聖ベルナールが創建した修道院があります。その建築は清貧、孤独、禁欲を求めるシトーの精神に沿った厳格なもので、浮彫や壁画による装飾を忌避していますが、そのために建築美が際立つという特性があります。フォントネーの回廊は大きな半円のアーチの枠の中に二連のアーケードを収めるギャラリーで構成され、光と影がその床に静かなリズムを刻んでいます。
2.セナンクの修道院の回廊
プロヴァンスのスナンコルの谷にあるセナンクの修道院は、「プロヴァンスの三姉妹」と呼ばれるシトー派修道院の一つです。人気のない乾燥した谷、大地を埋めつくすラヴェンダー畑。その風景の中に修道院だけが孤立しています。回廊は教会の南側にあり、シャープで堅固な構成によって両者が一体化しています。回廊は大きな半円のアーチに三連のアーケードを収める形式で、深く鋭い建築の線が強い陰影を生み出しています。
3.ル・トロネの修道院の回廊
プロヴアンス東端の森に建つル・トロネの修道院もシトー派の「三姉妹」の一つです。ロマネスクの愛好家だけでなく、建築家の間でも大変有名な修道院で、粗い石で築かれた簡素で堅固で神聖な空間は、訪れる人を虜にしていまいます。回廊は教会北側の傾斜地に築かれているため、回廊の空間自体も北に下っています。ギャラリーは半円の枠に二連の小アーケード列を収める形式で、壁の厚さが生み出す深い奥行きが印象的です。
4.アルルのサン・トロフィーム大聖堂の回廊
プロヴァンスの古都アルルには古代から中世にかけての建築が数多く保存されています。サン・トロフィーム大聖堂もその一つで、教会の奥に設けられた回廊は、長い修復を経て白い輝きを取り戻しました。回廊の四方の内の北と東の辺が12世紀のロマネスク建築で、柱頭には『旧約聖書』と『新約聖書』に基づくさまざまな物語が刻まれています。また、四隅や中間の角柱には聖トロフィーム、聖ステファノ、諸聖人などの姿があります。
5.ル・ピュイのノートルダム大聖堂の回廊
古い火山の地形を残すヴレー地方。その中心にル・ピュイは、サンティヤゴ巡礼で繁栄する前から熱病を癒す黒い石で有名な聖地でした。信仰の中心はノートルダム大聖堂で、回廊は教会の南側に設けられています。その回廊は、大聖堂の建築と同じく、たいへんユニークでエキゾティックです。玄武岩と石灰岩を交互に積んだ二重アーチはオリエンタルな雰囲気を醸し出しています。太い角柱に小円柱を沿わせた柱もユニークです。
6.モワサックの修道院の回廊
ラングドック北部のモワサックの修道院に「フランスで最も美しい」と讃えられる回廊があります。教会の南側に設けられた大きな回廊で、南仏の強い日差しがその空間に美しい陰影を刻んでいます。80近い柱頭にはさまざまな聖なる物語や、動植物文様が刻まれています。シャープな線とダイナミックな構図によるラングドックの流派の作品で、冠板のオリエンタルな浮彫も見逃せません。四隅のパネルには使徒たちが刻まれています。
7.レスタニーの修道院の回廊
カタルーニャのピレネー山中のにある小さな村レスタニー。その教会の南側に柱頭彫刻の宝庫のような回廊があります。回廊の入口は教会から少し離れているので気をつけてください。回廊は対の小円柱と柱頭からなるギャラリーで構成されていて、80あまりの柱頭が完全な状態で保存されています。ここで注目すべきは「キリスト降誕の物語」の諸場面を連続的に表現した北辺の柱頭です。他の面に刻まれた多彩な装飾文様も見事です。
8.サン・ファン・デ・ラ・ペーニャの修道院の回廊
アラゴンの北部には岩肌を露出した山々が連なっています。その山中に聖ヨハネに捧げる修道院があります。修道院の教会と回廊は大きくオーバーハングした岩の下に隠れるように建っています。回廊に屋根はなく(不要であるため)、4辺のうちの2辺は消滅していますが、残る西と南の2辺の柱頭は愛らしい浮彫で飾られています。そこに刻まれているのは「キリスト降誕の物語」と「宣教の物語」の諸場面です。
9.ソリアのサン・ファン・デ・ドゥエロ修道院の回廊
カスティーャのソリアの市街はドゥエロ川の右岸の高台に広がっています。その町外れ、ドゥエロ川の左岸にテンプル騎士団と聖ヨハネ騎士団が共同で建設した修道院があります。その回廊の何と奇妙なこと。回廊の各辺に4種類の形状の異なるアーケードが用いられているのです。ロマネスクやゴッシクのアーチもありますが、上部が大きく交差したアーチもあります。まるでギャラリーのサンプル帳のようなユニークな回廊です。
10.サン・ティリャーナ・デル・マルの参事会教会の回廊
カンタブリアのサン・ティリャーナ・デル・マルは、かつてはひなびた町でしたが、今は観光客で賑わう町に変貌しています。この町の核をなすのがコレヒアータの名で呼ばれる参事会教会です。その回廊は長方形で、ギャラリーの一部は失われていますが、残る部分に素晴らしい柱頭彫刻を見ることができます。物語を刻む説話的な柱頭もありますが、大半は動植物文様や幾何学文様を刻むもので、その大胆な表現は見事です。
いかがでしたでしょうか。次回も是非ご覧ください。