ヴェズレーのロマネスクの柱頭10選┃ロマネスク写真館

池田健二氏のロマネスク写真館8回目の投稿となります。

池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。

目次

第8回のテーマ-「ヴェズレーのロマネスクの柱頭頭10選」

前回はオータンの大聖堂の柱頭を取り上げましたが、今回はヴェズレーのサント・マドレーヌ教会の柱頭を紹介します。

どちらもブルゴーニュの北部にあり、12世紀前半に制作が進められた作品ですが、図像の選択や浮彫の作風はかなり異なっています。

図像については、オータンでは『新約聖書』に記されたイエスの生涯の諸場面を刻む柱頭が多かったのですが、ヴェズレーでは『旧約聖書』に基づく諸場面が頻繁に登場します。

また後に『黄金伝説』に収録される諸聖人の物語も数多く表現されています。

作風については、オータンの柱頭が人間的な温かみに溢れているのに対して、ヴェズレーの柱頭は聖性や神秘性に満ちいてるのが特徴でしょうか。

ヴェズレーの教会のナッテックスと身廊を飾る10の柱頭。その図像と表現をどうぞお楽しみください。

1.「ダビデとゴリアト」の柱頭

『旧約聖書』の「サムエル記」にあるダビデとゴリアトの戦いを刻んだ柱頭です。後にイスラエルの王となるダビデですが、このときはまだサウル王に仕える少年でした。イスラエルとペリシテの戦いの場で、敵側の巨漢の戦士ゴリアトにダビデは一人で立ち向かいます。まず投石器で石を飛ばしてゴリアトの額に当て、倒れるゴリアトの剣を抜いてその首を切り落とします。その場面が異時同図の技法で大胆に表現されています。

2.「モーセと金の牛」の柱頭

『旧約聖書』の「出エジプト記」にあるモーセの物語の一場面です。モーセがイスラエルの民を引き連れてエジプトを脱出し、約束の地をめざす旅の途中の出来事です。十戒を刻んだ石版を神から授かったモーセがシナイ山から下りてくると、待ちくたびれた民が祭司アロンに願って黄金の子牛を作り、偶像崇拝に耽っていたのです。怒ったモーセは石版を投げつけて偶像を破壊してします。偶像からは悪魔が飛び出しています。

3.「聖女エウゲニアの伝説」の柱頭

エジプト総督フィリッポスにはエウゲニアという娘がいました。エウゲニアは父の意に反してキリスト教徒となり、男装して出奔。修道院に匿われます。時はたち、修道院長となったエウゲニアは、ある女から手込めにされ妊娠させられたと誣告され、総督の前で裁かれることになります。エウゲニアは自分の無実を証明するため、衣を開いて自分が女であることを明します。総督はそのとき院長が自分の娘であることに気づくのです。

4.「聖ベネディクトゥスの誘惑」の柱頭

後にモンテカッシーノで有名な修道院規則を作成するベネディクトゥスですが、この場面はその前のスービアコの修道院での出来事です。まだ若かったのベネディクトゥスは夜になるとしばしば悪魔による誘惑を受けます。ここでは昔の恋人と思われる女性を連れた悪魔が現れ、その誘惑をベネディクトゥスが拒絶しています。その後にはベネディクトゥスが裸で茨の園に飛び込み、欲望を打ち払う場面が刻まれています。

5.「聖マルタンと聖なる木」の柱頭

トゥールの司教聖マルタンにはさまざまな伝説があります。ここでは異教徒への宣教の旅での出来事が刻まれています。マルタンは異教徒が神木として崇める木を切り倒そうとして抵抗されます。異教徒は神木が自分たちの方に倒れればマルタンの信仰が正しく、マルタンの方に倒れれば自分たちの信仰が正しいと主張します。マルタンの祈りによって神木は異教徒の方に倒れるのですが、後で異教徒たちが木を引っ張っています。

6.「貧しきラザロと悪しき金持ち」の柱頭

「ルカによる福音書」にあるイエスの例え話を刻んだ柱頭です。ある金持ちの家の玄関に座った貧しきラザロは、食卓から落ちたものを求めますが、金持ちはそれを与えません。その後、亡くなった貧しきラザロの魂は天に迎えられてアブラハムの懐に抱かれ、悪しき金持ちの魂は悪魔によって地獄に運ばれて劫火に焼かれます。悪しき金持ちのベッドの下には金持ちの象徴である巾着と罪の象徴である蛇が刻まれています。

7.「神秘の粉引き」の柱頭

これは新約と旧約の関係を問う当時の神学上の問題を表現した柱頭です。左側の人物は旧約の象徴であるモーセで、殻の付いた麦を粉引き器に入れています。下では新約を象徴するパウロが臼で挽かれてた麦の粉を受け取っています。その間に見える水車はキリストの象徴です。旧約の難解な教えを誰でも理解できる新約の教えに変えたのがイエスであることを示す図像です。ヴェズレーの柱頭の中でもとりわけ有名な作品です。

8.「聖ウスタッシュの伝説」の柱頭

ウスタッシュ(ラテン語でエウスタキウス)はローマの将軍でした。元の名はプラキドゥスです。ある日のこと、将軍プラキドゥスは馬に乗り、猟犬を連れて、鹿狩りに出ます。森の中で一頭の鹿を追い詰めたところ、角の間に十字架が見え、振り返った鹿はなぜ私を追うのかと問いかけます。これをきっかにプラキドゥスはキリスト教徒となり、エウスタキウスを名乗るようになります。鹿の姿は柱頭の反対側で見えませんね。

9.「淫欲と絶望」の柱頭

衝撃的な柱頭です。裸の女性の足に蛇が絡みつき、女性は自分の乳房を引っ張ってきます。これは「淫欲」の寓意像です。反対側では悪魔が剣で自身を突き刺しています。これが「絶望」の寓意像です。なぜこの二つの罪源が組み合わされたのでしょうか。ヴェズレーの若い修道士たちが「淫欲」に苛まれ、深く「絶望」したようすを表しているのでしょうか。キリスト教の三対神徳の一つである「希望」の逆が「絶望」です。

10.「聖ベネディクトゥスの奇跡」の柱頭

これまでの柱頭は教会の身廊にありましたが、この柱頭はナルテックスにあります。モンテカッシーノの修道院で、院長ベネディクトゥスが畑に出て働いている間に、庭師の息子が急死します。帰って来たベネディクトゥスは、庭師の願いに答えて奇跡を起こし、その子を蘇えらせたのでした。この画面では息子は屍衣に包まれていますが、反対側には蘇えった息子と共に帰って行く庭師の姿があります。

いかがでしたでしょうか。次回も是非ご覧ください。

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