パリのクリュニー美術館のロマネスク作品10選┃ロマネスク写真館

池田健二氏のロマネスク写真館17回目の投稿となります。

池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。

目次

第17回のテーマ-「パリのクリュニー美術館のロマネスク作品10選」

長い盆休みをいただきましたが、今日からロマネスク10選を再開します。

前回はルーヴル美術館にあるロマネスク彫刻を紹介しました。今回は同じパリにあるクリュニー美術館のロマネスク作品を紹介します。

クリュニー美術館は通称で、本名は国立中世美術館です。その名のとおり、ここに展示されているのはフランスとヨーロッパ諸地域から収集された中世の時代の諸作品です。

美術館は、2世紀に建設されたローマの大浴場と、15世紀に建てられたルネサンス様式の美しい館に設置されています。2016年には大規模な修復工事が始まり、2022年には新しいエントランスも完成して、作品の展示方法も一新されました。

コロナ禍も遠ざかり、海外旅行も再開されています。こんどパリを訪れるときには、ぜひともこの新しくなったクリュニー美術館を訪れてください。ここではとりわけ魅力的な展示作品を紹介します。

1.クリュニー美術館の新しい入口

ローマの大浴場とクリュニー館を繋ぐ場所に新しい玄関とホールが設置されました。館の中庭の東端にあったかつての入口はカフェに姿を変えています。新館の壁には銅板が貼られていて、周囲の歴史的な建築とよく調和しています。ホールからの出口に設けられたブックショップには、中世に関連した書物やお土産が揃っています。

2.ラヴェンナの象牙パネル

イタリアのロマネスク美術には二つの全く異なる作風が認められます。その一つは古代の伝統を継ぐ自然主義的で写実的な作風です。他の一つはゲルマン美術の流れを汲む象徴的で表現主義的な作風です。この小さな象牙彫りのパネルは明らかに後者に属しています。図像は「キリストの磔刑」で、ヘタウマな表現が魅力です。

3.オーヴェルニュのキリスト

12世紀にオーヴェルニュ地方でたくさんの木彫彩色の聖母子像やキリスト像が制作されました。オーヴェルニュの現地の教会に残っているものもありますが、美術館に展示されているものもあります。これはクリュニー美術館にある二体のうちの一体です。キリストの肉体や衣の造形は素晴らしく、表情には深い精神性が感じられます。

4.サン・ジェルマン教会の柱頭

パリのサン・ジェルマン教会は中世の初期に建設された歴史ある修道院の教会です。現在の教会は11世紀から13世紀にかけての建築で、全体にロマネスク様式を留めています。19世紀には大規模な修復がなされましたが、そのとき、11世紀の柱頭の多くが複製に取り替えられました。この「荘厳のキリスト」の柱頭は取り外されたオリジナルです。

5.サン・ペラ・ダ・ロダの回廊の柱頭

サン・ペラ・ダ・ロダはカタルーニャの海辺の高台に建つ古い修道院です。19世紀には荒れ果ててしまい、回廊を飾っていた柱頭も散逸しました。クリュニー美術館はそのうちの8個を収蔵しています。この柱頭に刻まれているのは「ノアの箱舟」です。三階建ての箱舟はもう完成していて、ノアが動物を船内に導いています。

6.サン・ドニの人物円柱の頭部

パリの郊外のサン・ドニ大聖堂は、フランス革命までは歴代王朝の墓所だった修道院の教会でした。12世紀前半、その修道院長となったシュジェールは新しい構想に基づく教会を建設しました。その教会の扉口は数多くの人物円柱で飾られていましたが、革命で破壊されました。これは、そこにあったモーセの人物円柱の頭部です。

7.サン・ドニのステンドグラス

シュジェールは教会の正面を飾る彫像だけではなく、後陣の窓を埋めつくすステンドグラスも自らの指示で制作させます。その大半は革命で失われてしまいましたが、保存されている断片もあります。聖ベネディクトゥスの奇跡によって弟子のマウルスが水面を歩いている場面を描いたこのステンドグラスもその一つです。

8.ケルンの象牙の小箱

かなりの大きさなので本当は大箱と言うべきでしょうか。ケルンで12世紀に制作されたと推測されています。側面の右側には聖母子、ヨセフ、シメオンの姿があります。左側に並んでいるのは三人のマギたちです。全体で「マギの礼拝」の場面になっています。上部に刻まれているのは預言者たちです。ドイツらしい生真面目な作品です。

9.透彫の表紙飾り

真鍮製でしょうか。繊細で洗練された技術による見事な金属工芸作品です。どこを透かし、どこを残すかが腕の見せ所です。四方に刻まれているのは「天国の四大河」で、大きな壺から水を流しだす人物が大河の象徴です。中央には「神の小羊」が配されています。全体が天国の表象なのです。書物の表紙の飾りだったようです。

10.聖パウロのエマイユ

七宝細工のことをフランス語でエマイユと言います。12世紀から13世紀にかけて、リモージュとその周辺でエマイユによる聖遺物箱や聖人像が盛んに制作されました。ヨーロッパ各地にその作品が今も残っています。中央に座すのは彫金で表現された聖パウロで、周囲は七宝細工で飾られています。聖遺物箱の側面だったのでしょうか。

いかがでしたでしょうか。次回も是非ご覧ください。

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