スペイン・ロマネスクの絶景10選┃ロマネスク写真館

池田健二氏のロマネスク写真館3回目の投稿となります。

池田健二氏が撮った美しい写真と解説をどうぞお楽しみください。

目次

第3回のテーマ-「スペイン・ロマネスクの絶景10選」

スペインのロマネスクはレコンキスタ運動の中から生れました。

8世紀初頭、北アフリカからジブラルタル海峡を渡ったイスラム勢力は、西ゴート王国を滅ぼしてイベリア半島の大半を支配下に置きます。半島の北端と東端に逃れたキリスト教徒たちはやがて小王国を建国し、イスラム勢力からスペインの大地を取り戻すレコンキスタ運動を開始したのです。

そして11、12世紀には半島の北半を奪回し、教会の建設を進めます。それはまさにロマネスクの時代でした。

半島北西端の聖地サンティヤゴ・デ・コンポステーラの繁栄もロマネスク教会の建設を後押しします。それらの教会は、スペインの荒々しい大地とひとつになって、今も訪れる旅人の目を楽しませてくれます。

そしてまた、忘れてはならないのが、西ゴート、アストゥリアス、モサラベなどの様式による、ロマネスクに先立つ時代の諸教会です。スペイン各地に点在するこれらのプレロマネスクの諸教会も魅力に溢れています。今回は、ロマネスクだけでなく、プレロマネスクも含めた中から、10の教会を選び出しました。どうぞ、その絶景をお楽しみください。

1.タウイ-サン・クリメン教会

カタルーニャのピレネーの山奥、ボイ谷のタウイの村の入口に建つサン・クリメン教会は小さいけれども魅力溢れる教会です。写真は3月末の風景です。地面は若葉の緑に包まれていますが、山々の頂上にはまだ雪が残っています。その雄大な景観の中に、ロンバルディア様式の鐘塔が印象的なロマネスクの小教会がたたずんでいます。後陣に描かれていた「荘厳のキリスト」は20世紀前半にバルセロナの美術館に移されてしまいましたが、教会と山々が織りなす絶景は変わることはありません。

2.フロンタニヤ-サン・ジャウメ教会

カタルーニャのピレネー山中にあるフロンタニヤは、中世のままに時間が止まったような村です。そこに建つサン・ジャウメ教会は、堅固な石積みが印象的な12世紀初頭のロマネスクの建築です。重厚きわまりないその石壁は、訪れる人に神の家に招かれた安堵感を与えてくれます。永遠不変の空間がそこにあるからです。教会を出て村の東に歩みを進め、振り返ると、岩の山と岩の教会が見事に調和した絶景が目前に広がります。

3.カルドーナ-サン・ビセンス教会

カタルーニャ中部、マンレサとソルソナを結ぶ街道を見下ろすように、黄褐色の岩山がそびえています。その頂上には中世の城砦と教会が肩を寄せるように建っています。城砦はパラドールに改築されましたが、初期ロマネスクの教会は当初のままに保存されています。ここでの絶景には天候と時間の制約があります。晴れた日の早朝、それも日の出の直前、ロンバルディア帯に縁取られた後陣が、ほんの一瞬、赤く輝くのです。

4.サンタ・クルス・デ・ラ・セロス-サンタ・マリア教会

アラゴン王家の墓所でもあったサン・ファン・デ・ラ・ペーニャ修道院に通じる山道の入口に、サンタ・クルス・デ・ラ・セロスの村があります。そこにアラゴンの王女が創建した修道院の教会がロマネスクの姿をとどめています。ペーニャの修道院に向かう山道で、この風景に出会います。遠くにはまだ雪の残るピレネーの山並みが続きます。眼下に見えるのはセロスの村です。何とも雄大なロマネスクのある絶景です。

5.カスティーリョ・デ・ロアレ-サン・ペドロ教会

ウエスカに続く荒野を睥睨するロアレの城砦は、アラゴン王がレコンキスタの拠点として11世紀に建設したものです。城砦の一画には聖ペトロに捧げるロマネスク教会が組み込まれています。レコンキスタとロマネスク、再征服と教会建設が同時代の活動であったことを示す重要な遺構です。これほど中世らいし絶景は他のどこにもありません。そのため、さまざまな映画やコマーシャルのロケ地にもなっています。

6.アルケザール-参事会教会

アラゴン南部の平原に不思議な名の町があります。アルケザールは城を示すアラビア語、アル・カサルに由来する名です。イスラム支配の面影が名前に残っているのです。その名のとおり、高台に建つ城砦を中心とした褐色の家並みはどこかアラブ風です。この城砦にもロマネスクの参事会教会(コレヒアータ)が組み込まれています。町の手前の駐車場のテラスから望む絶景は、中世スペインの歴史を証言しています。

7.キンタニーリャ・デ・ラス・ビニャス-サンタ・マリア・デ・ララ教会

カスティーリャの大地はメセタと呼ばれる乾燥した高原に広がっています。ブルゴスからシロスの修道院に向かう街道を少し逸れて進むと、7世紀の西ゴート時代の教会の遺構に出会います。残っているのは翼廊と後陣だけですが、大きな切り石で築かれた堅固な教会で、外壁に刻まれたオリエンタルな唐草文様が見所です。後には険しい岩山があり、前には荒々しい平原が広がっています。カスティーリャならではの絶景です。

8.サモラ-サン・サルバドール大聖堂

カスティーリャの中西部、ドゥェロ川の岸にあるサモラはロマネスク都市です。中世の面影を残す旧市街にいくつものロマネスク教会が保存されているからです。市街は川岸の丘に広がっていて、最も高い場所に救世主に捧げる大聖堂が建っています。ドゥェロ川に架かるピエドラ橋は12世紀に建設されたロマネスクの石橋ですが、その上からこの絶景を望むことができます。右の高台に見えているのが大聖堂の塔です。

9.サン・パンタレオン・デ・ロサ-サン・パンタレオン礼拝堂

カスティーリャの北部に奇妙な姿の岩山があります。石灰岩の褶曲した大地を水と風が削って生まれた山です。東側からは見えないのですが、西側の斜面に聖パンタレオンに捧げる小さなロマネスクの礼拝堂が建っています。単身廊と半円の後陣からなる建築で、扉口は人物円柱や柱頭の浮彫で飾られています。岩山を下り、ブルゴスに続く道を少し進むと、この絶景(奇観)を望む地点に到ります。

10.サンタ・マリア・デ・レベーニャ-サンタ・マリア教会

カンタブリアの海岸から『黙示録注解』が記されたリエバナの修道院に続く谷筋の道を進むと、険しい岩山を背にして建つサンタ・マリア・デ・レベーニャの教会が見えてきます。10世紀に南部のイスラム支配地から移住したキリスト教徒(モサラベ)が建設した教会で、内部には馬蹄形アーチが支える空間が広がっています。深い軒と蕨文様を刻む持送りもこの様式の特徴です。スペインならではの絶景のひとつです。

いかがでしたでしょうか。「ロマネスク写真館」を毎週アップ予定です。

次回も是非ご覧ください。

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